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気になる裁判例

「記者会見による名誉棄損」(東京高裁令和5年7月13日)・・弁護士・伊藤祐介


 本件は,アイドルが自死したことについて,遺族から所属芸能事務所等に対して,自死は事務所社長のパワハラが原因である等として訴訟を提起した際の,遺族代理人弁護士らの記者会見における言動が名誉毀損に該当すると判断したものである。  本件では,多くの争点が存在するが,以下記者会見における摘示事実に関して述べる。  名誉毀損は,一般的に,摘示された事実がその人の社会的評価を低下させると認められる場合に成立する。ここで注意すべきは,摘示事実とは,形式的に示された事実指すのではなく,「一般読者の普通の注意と読み方」(最二小判昭31.7.20民集10巻8号1059頁)に基づき判断される。

 本件では,当該記者会見で摘示された事実は,「訴訟での原告の主張内容の説明」にとどまるのか否かが問題となったが,裁判所はこれにとどまるものではないとして,名誉毀損の成立を認めた。

 なお,摘示事実が人の社会的評価を下げるものであったとしても,当該事実が真実であることが証明されるか,または確実な資料,根拠に照らし真実であると誤信したと認められる場合には名誉毀損は成立しない。本件でいうと,摘示事実が「訴訟での原告の主張内容の説明」にとどまる場合は,原告が訴訟において当該主張を行なっていること自体が上記真実性の証明対象である,という構造となりうるであろう。

 しかし,既に述べたように,摘示事実は形式的に示された事実ではなく,「一般読者の普通の注意と読み方」によって実質的に判断される。一般的には,代理人弁護士が提訴記者会見を行う場合,よほど注意深く言葉を選ばなければ,訴訟での主張内容の説明を一歩超えた意味が読み取られてしまうように思う。


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