「球団運営会社に対して安全配慮義務違反を認めた事例」・・弁護士・松村博文
プロ野球の観戦中、ファウルボールが子供連れの母親の顔面に直撃し、右目を失明した事故について、球団運営会社に対して安全配慮義務違反を認めた事案(札幌高裁判決平成二八年五月二〇日)。
第一審は、札幌ドーム球場自体の欠陥を指摘して、土地工作物の設置保存に瑕疵(欠陥)があるとして民法七一七条により被害者の請求を認めました。
これに対して、控訴審判決は、球場自体には瑕疵がないものの、被害者の属性や野球観戦に来た経緯を考慮して、球団運営会社の安全配慮義務(チケット購入という野球観戦契約に信義則上付随する義務です。)違反を認定しました。
この判例の意義は、野球場という本来ファウルボールが飛んでくることで臨場感をもたらす場所においても安全配慮義務違反が認められたという点にありますが、危険性の低い場所での安全配慮義務はより強く課せられる点にも見出せます。すなわち、野球場でさえも安全配慮義務違反による賠償責任が認められるのですから、訪れる者が多種多様で、健常者だけとは限らず、少年、老人等も予定している施設(劇場、大衆浴場、レストラン等)の場合には、さらに高度の義務が課せられることに注意すべきでしょう。
この点、裁判例でも、レストラン店舗出入口に設置された自動ドアの安全性を検討するにあたり、高齢者等、様々な客が来店することを当然に予定しているのであるから、当該自動ドアについては、運動能力が衰えて歩行能力が必ずしも十分でないような者も利用することを前提としなければならない等と判示しています(東京地裁平成二三年二月三日判決等)。また、窓の開放制限装置が不適切で認知症患者が転落死した事件でも賠償責任を肯定しています(東京高裁判決平成28年3月23日)。
施設管理者にとって、厳しい判決が続いているので管理施設の安全配慮には特に留意していただきたいと思います。
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