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気になる裁判例

「離婚後15年以上婚氏を称していた者が婚姻前の氏(旧姓)に変更することが認められた事例」・・・弁護士・高井陽子

 本件は、婚姻によって夫の氏になったものの、その後離婚し、その際に婚氏続称の届け出をして、離婚後15年以上婚氏を称してきたXが、子供の大学卒業を機に婚姻前の氏に変更することを希望し、家庭裁判所に対して氏の変更の許可を求めた事案です。

 そもそも、氏の変更については、戸籍法107条1項において、「やむを得ない事由」によって氏を変更しようとするときは、家庭裁判所の許可を得てその旨を届け出なければならないと規定されています。これは、個人を識別するための手段である氏が安易に変更されてしまうと社会に混乱等をきたすためです。

 したがって、「やむを得ない事由」の判断にあたっては、氏の変更の必要性や婚氏続称を必要とした事情の消滅等の申立人側の事情と、氏の変更を認めることによる社会的弊害がないかを考えて、個々の事情を検討することになります。

 抗告審である本決定では、Xは離婚後も15年以上婚姻中の氏を称してきたことから、その氏は社会的に定着していることを認めつつも、@Xが離婚に際して婚氏続称を選択したのは、当時9歳であった長男のためであったが、長男は大学を卒業したこと、AXは、離婚後Xの婚姻前の氏と同じ氏の両親と同居し、9年にわたって両親とともに婚姻前の氏を用いた屋号で近所付き合いをしてきたこと、BXには妹が2人いるが、いずれも婚姻しており、両親と同居しているXが両親を継ぐものと認識されていること、CXの長男は、Xが氏を婚姻前の氏に変更することの許可を求めることにつき同意していることを理由として、本件申立てには、戸籍法107条1項の「やむを得ない事由」があると認めるのが相当である、と判断しました。

 これは、離婚後に婚氏続称の届け出をしたが、婚姻前の氏に戻りたいとの理由での氏の変更許可を求める申立てについて、「やむを得ない事由」を比較的緩やかに解して氏の変更を認めていた近年の裁判例の流れに沿った判断であり、15年という婚氏続称が長い事案においても認められた点で、実務上参考になるものです。


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