「私立中学校の生徒が自殺した事件(H20.7.18判決)」・・・弁護士・梶 智史
さいたま地方裁判所平成20年7月18日判決は,私立中学校の生徒が自殺した事件について,自殺原因を調査し,両親に報告する義務を行ったとして,両親が損害賠償請求をした事案において,両親の請求を認め,中学校の設置主体である学校法人に対し22万円の支払いを命じる判決を下しました。
すなわち,同判決は「学校は,在学契約に基づく付随的義務として,信義則上,親権者等に対し,生徒の自殺が学校生活に起因するのかどうかを解明可能な程度に適時に事実関係の調査をし,それを報告する義務を負うというべきである。」として,学校が保護者に対して調査・報告義務を負うことを一般的に認めた上,「ただし,これらの調査報告は学校が優先的に行うべき事柄であるとしても,学校は,捜査機関ではなく教育機関であり,人的物的体制にかんがみてもその調査報告には自ずから限界があること,学校が抱える生徒は当該自殺した生徒1人だけではなく,ほかの生徒の心情やプライバシーを配慮する必要性もあること,調査を尽くしても必ずしも真実を得られるとは限らないことなどからすると,調査により得られた結果のみをとらえて,調査報告義務違反ということはできないのは当然であるし,保護者の希望に沿うような進展を見せなかったという一事をもって,調査報告義務違反ということもできないというべきである。」と判断し,その調査・報告義務にも一定の限界があることを認めました。
しかし本件では,「被告学校法人は,生徒Aや生徒Bを含む生徒からの情報収集を全く行わないまま,学校生活上に何らの原因もないと判断したというのであって,学校に課された重要な責任を認識していなかったか,あるいは軽視していたといわざるを得ない。
したがって,被告学校法人には,この点に関する調査報告義務違反があったといわざるを得ない。」として,学校法人の調査が不十分であったとして,調査報告義務違反を認めています。
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