「学校法人には自殺の原因の調査・報告義務があるか」・・・弁護士・高井陽子
在学生が自殺した際、学校法人には自殺の原因の調査・報告義務があるか
学校内でのいじめにより、在学生が自殺をしてしまうという悲しい事件が後を絶ちません。
万が一このような事件が起こってしまった場合、学校内で何が起こっていたのかを親が把握することは難しく、
事実関係の確認には、学校による調査が不可欠です。
本件は、中学生Aが自殺したことに関し、Aの両親が、Aの自殺は中学校でいじめをうけていたことが原因である
ことを疑い、学校法人に対し、在学生にAの自殺の事実を知らせたうえで、その原因について聞き取り調査を求めました。
しかしながら、学校法人の調査は不十分なものであり、学校法人は、全校生徒に対する詳細な聞き取り等の再調査を
求めた両親に対して、不特定多数の生徒の精神的な健康に悪影響を及ぼすおそれがあること等を理由に、これを拒否し
ました。
そこで、両親は、学校法人を相手に、学校法人がAの自殺の原因について調査し、両親に報告する義務を怠った
ことが、在学契約上の債務不履行にあたる等として、損害賠償を請求しました。
高知地裁平成24年6月5日は、学校法人の経営主体は、在学契約に基づき、保護者に対し、預かった生徒の学校生活上の安全に配慮して、無事に学校生活を送ることができるように教育・指導をするべき立場にあるのであるから、信義則上、在学契約に付随して、生徒が自殺し、それが学校生活上の問題に起因する疑いがある場合には、その原因が学校内のいじめや嫌がらせであるか否かを解明するために、他の生徒の健全なプライバシーに配慮したうえ、必要かつ相当な範囲で、適時に事実関係の調査をして、保護者に対しその結果を報告する義務を負うと判断し、本件学校法人の義務違反を認めました。
本判決は、学校内でいじめがあったか否か不明確な状況でも、学校法人には自殺の原因がいじめにあったか否かを調査して、その結果を両親に報告する義務があることを認めた判決であり、今後の学校側の対応において、一つの指針になるものです。
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