「被害者と社会保険者の請求権の優劣(最高裁第三小法廷H20.2.19判決)」・・・弁護士・中島徹也
自動車事故の被害者が社会保険(国民健康保険など)から保険給付を受けた場合、被害者が自賠責保険会社に対して有する損害賠償額の支払請求権(直接請求権)は、その保険給付の価額の限度において社会保険者(市町村など)に移転します(請求権代位)。そのため、被害者が社会保険によってはてん補されない損害について直接請求権を行使した場合、被害者の直接請求権と社会保険者の代位請求権とが競合することとなります。
被害者と社会保険者の請求権が競合する場合、両者の請求金額の合計額(被害者の未てん補損害の額と社会保険からの保険給付の価額の合計額)が自賠責保険の保険金額を下回っていれば、両者は満額を受領できるので問題となりませんが、上回っていれば、いずれの請求権を優先すべきかが問題となります。
この問題について、従来の自賠責保険実務では、各請求金額により自賠責保険の保険金額を按分して両者に配分するという按分方式が採用されてきました。これに対し、本判決は、自動車事故の被害者が市町村長から老人保健法25条1項に基づく医療給付を受けた事案において、被害者の直接請求権が優先するとの判断を下しました。
本判決により従来の自賠責保険実務は変更を迫られることとなりましたが、老人保健法以外の社会保険についてどこまで本判決の射程が及ぶのかについてはなお問題が残されています。
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