民事裁判における報道関係者の取材源に関する証言拒絶 (最判平成18年10月3日)
・・・弁護士・吉川 愛
民事裁判においては,公正な裁判の実現を目的として,民事訴訟法で証人に証言義務を負わせています。そして一定の場合に,例外的に証言拒絶権を認めています。
本件は,アメリカ合衆国の国税当局の職員が,日本の国税庁が日本の報道機関に違法に情報を漏洩することを知りながら,無権限で虚偽の内容を含むものの情報を日本国税庁税務官に対し漏えいしたことにより,報道され,その結果,漏えいされた会社が株価暴落などの損失を被ったとしてアメリカ合衆国に損害賠償請求を起こした民事訴訟事件です。
裁判中,証人である記者が取材源に関する証言を拒絶したことが,例外的な証言拒絶事由の中の,「職業の秘密」に当たるかが問題となりました。第一審否定,第二審肯定で,最高裁の決定が待たれていました。
最高裁では,証言拒絶が認められるのは,「職業の秘密」であり,さらに秘密が保護に値するものである必要があるとし,報道関係者の取材源について,「職業の秘密」にあたるとした上で,報道の内容,取材の手段・方法,当該民事事案の性質と証言の必要不可欠性などを考慮し,保護に値する秘密であるとして,証言拒絶を認める決定を出しました。
刑事裁判ではなく,民事裁判において取材源の証言拒絶に関する最高裁の判断が出たのは初めての事です。本件は,憲法上非常に奥が深いもので,また具体的事案も単純ではなく,ここで紹介しきれるものではありませんが,興味を持たれた方はより深く検討されてみて下さい。
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