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「商標権侵害」・・・ 弁護士・伊藤祐介

 先日,SNSアプリのTwitterが「X」へ名称を変更したと聞きました。その際に,日本のロックバンドX JAPANの方が,「X JAPAN商標登録してあると思うけどなー」と旧Twitter上で呟いていました。既に他者に商標登録されている名称でビジネス活動をすると商標権侵害で違法になってしまうのでしょうか。

 商標法は,第2条1項で,「標章」を「人の知覚によって認識することができるもののうち,文字,記号,立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合,音その他政令で定めるもの」と定義した上で,「商標」について,業として商品を生産等する者がその商品について使用をする標章,及び業として役務を提供等する者がその役務について使用をする標章と定義しています。
 また,商標の本質的機能は,自他商品・役務を識別することにあることから,「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法第26条1項6号)には,商標権の効力は及ばないとされています(いわゆる商標的使用論)。
 つまり,商標使用によって,商品や役務の出所に誤認混同を生じるおそれがあるかどうかということが,商標権侵害にあたるかの判断で重要になるのです。

 例:Always Coca-Cola事件
 コカ・コーラ社が販売促進のために「オールウェイズ コカ・コーラ」というキャッチフレーズによるキャンペーンを実施し,コーラの缶の「Coca-Cola」のロゴマークの左上あたりに「Always」の文字を表示する行為が,コーヒー等を指定商品とする登録商標「オールウェイ」の商標権の侵害になるかが争われた事案です。
 裁判所は,「オールウェイズ コカ・コーラ」のキャッチフレーズは,「需要者が,いつも,コカ・コーラを飲みたいとの気持ちを抱くというような,商品の購買意欲を高める効果を有する内容と理解できる表現」として,これを見た「一般顧客は,もっぱら,ザ・コカ・コーラ・カンパニーがグループとして実施している販売促進のためのキャンペーンの一環であるキャッチフレーズの一部であると認識するものと解される。」これらの表記は,「いずれも商品を特定する機能ないし出所を表示する機能を果たす態様で用いられているものとはいえないから,商標として使用されているものとはいえない」と結論づけました。

 では,どのような場合は,商品や役務の出所に誤認混同を生じるおそれがあると認められるのでしょう。例えば,上記のコカ・コーラ社の例で挙げるとすると,コーラの缶に表示された文字が「Always」ではなく「pepsi」だった場合はどうでしょうか。一般顧客の中には,ペプシコーラだと誤認するまたはコカ・コーラとペプシコーラが共同でコーラを作ったと誤認する等の,商品の出所に誤認混同を生じるおそれがあるといえそうです。
 冒頭の質問に戻ると,SNSアプリのXと,日本のロックバンドのX JAPANとは,単に名称が同じまたは似ているというだけでは商標権侵害の問題とはならないように思われます。重要なのは,商標的使用すなわち,商標使用の態様が商品・役務の出所に誤認混同を生じるおそれがあるかどうか,という点になりそうです。



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