「SNSを利用するにあたっての留意点」・・・ 弁護士・伊藤祐介
最近,Twitterのリツイートをするだけでも,誰かから訴えられたりすることがあると聞きました。SNSを利用するにあたって,どのようなことに気をつければ良いのでしょうか。
1.他者の名誉毀損発言のリツイート
Twitterのリツイートに関する裁判例として,まず,元大阪府知事の橋下徹さんがジャーナリストの方に対して提起した名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟(大阪高判令和2年6月23日裁判所Web)が挙げられます。
こちらの裁判では,橋下さんが大阪府知事時代に大阪府の幹部職員を自殺に追い込んだ等とする内容の第三者のツイートを,ジャーナリストの方がリツイートしたことに対して訴訟提起されたものですが,大阪高裁は橋下さんの請求を認めました(損害額については一部のみ認容)。しかも,「リツイート主がその投稿によって元ツイートの表現内容を自身のアカウントのフォロワーの閲読可能な状態に置くということを認識している限り,」原則として元ツイート内容の名誉毀損に基づく不法行為責任を負うと判示しており,この裁判例を基準にすると,Twitter利用者は,気軽にリツイートができなくなり,表現の自由の観点から見ると適切でないようにも思います。
他方で,テレビ番組に出演したことで,不特定多数の人に誹謗中傷されてしまった,タレントの木村花さんの事件のような例もあり,集団での一方的なSNSでの誹謗中傷は許されるものではないことも当然と言えます。自らが誹謗中傷をしなくても,誹謗中傷をリツイートするだけでも違法である,という理解は,このような側面から捉えれば,適切なものとも言えます。何れにせよ,人を不快にさせるような荒っぽい表現の投稿に対しては,安易にリツイートしない方が良いでしょう。
2.第三者の写真を含むツイートのリツイート
次に,第三者が勝手にプロのカメラマンさんの撮影した写真を含んだツイートを行い,氏名不詳者がこのツイートをリツイートしたことに対して,カメラマンさんがTwitter 社に対して当該氏名不詳者の発信者情報開示請求を求めた最高裁判例(最判令和2年7月21日民集74巻4号1407頁)があります。
こちらの裁判では,氏名不詳者のリツイートが,カメラマンさんの写真(著作物)の氏名表示権を侵害していると判示されました。氏名表示権とは,著作物を「提供」,「提示」する際に,著作者が自らの氏名を表示する権利をいいます。
しかし,実は,もともとのツイートに含まれていたカメラマンさんの写真には,カメラマンさんの氏名表示はあったのです。リツイートの際に,Twitterのシステムの仕様によって,リツイートにおける表示画面上で元画像がトリミングされたことによって,カメラマンさんの氏名表示が写っていないだけでした(トリミング処理をしたのは氏名不詳者ではなくTwitter社)。なお,本件では,写真を含むリツイートで著作権侵害が成立しないことは確認されていたため,著作者人格権侵害(氏名表示権侵害)が認められるか否かが大事な争点でした。
また,本件は,ツイートの投稿者が自らの写真を投稿したのではなく,他人の写真の無断投稿でした。そして,Twitter利用規約によると,投稿者は他のTwitter利用者が,投稿者の投稿をリツイートすることを事前に利用許諾しています。裏を返せば,今回は他人の著作物をリツイートすることについての適法な利用許諾権限が投稿者に存在していなかったといえます(本来,適法な利用許諾があれば,著作物の氏名表示を省略して良いとする意思表示(著作権法第19条2項参照)とも捉えられるでしょう)。
この事例は,一般的に写真をリツイートする時には著作者の名前を必ず表示しなければならない,とまで義務付けるものではありませんが,SNS利用の際には,怪しいアカウントの投稿写真等は拡散しないよう気をつけた方が良いでしょう。
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