「音楽業界の権利」・・・ 弁護士・伊藤祐介
私は高校生ですが,作詞・作曲活動をしており,将来,ミュージシャンとして生計を立てたいと考えています。現在,いくつかの芸能事務所から声をかけられています。今後,音楽活動をしていくにあたって,権利関係などがよくわからないので,教えて下さい。
音楽活動を行うにあたって,大事な「権利」が,@原盤権,A音楽出版権,大事な「契約」が,専属契約です。以下,それぞれご説明します。
まず,原盤権ですが,この権利は,著作権法その他法律に定められている権利ではありません。レコーディングした音源が売れた場合等に,誰にどのような割合の収入が入るか(印税),レコーディングした音源を使う権利は誰が持っているか(原盤権),という取り決めを原盤契約といい,主にレコード会社と芸能事務所側(アーティスト含む)の間で締結されます。この原盤契約の中で,芸能事務所側取り分の収入が,「印税」という形で表現され,印税の割合は,原盤権を誰がどのように保有しているかに影響を受けます。
次に,音楽出版権ですが,この権利は,制作した楽曲の,いわゆる著作権です。あなたが制作した楽曲が社会の中で使われた場合等に,誰にどのような割合での収入が入るか(著作権使用料),著作権を誰が持っているか,という取り決めを著作権契約といい,主に音楽出版社と芸能事務所側(アーティスト含む)の間で締結されます。そもそも,なぜ「著作権」を「音楽出版権」と呼ぶかというと,録音機器が発明される以前,西洋では楽曲を社会に流通させる役割は楽譜を出版する会社にありました。この名残から,業界では,楽曲の著作権は「音楽出版権」,楽曲のプロモーションをする会社を音楽出版社(楽譜出版の意味ではない)と現在でも呼ばれています。
原盤権と音楽出版権は似て非なるものです。原盤権は,レコーディングした音源自体の権利関係ですので,ライブで当該楽曲を生演奏する場合などには,原則影響しません。原盤権・音楽出版権に共通するのは,「作った人」と「権利を持っている人」が別々になることが実際は多い,ということです。
最後に,専属契約ですが,アーティストは,芸能事務所との間での専属契約(専属マネジメント契約),レコード会社との間での専属契約(専属実演家契約)の2つの専属関係に挟まれます。業界の慣例上,専属契約違反があった場合には,金銭のやり取りで解決される場合もありますが(専属解放ともいいます),暗黙の了解で,あまりとやかく言われない場合もあります。
権利関係の交渉なども大切ですが,何より,信頼できる芸能事務所に所属することが,一番大事ではないかと思います。
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