「記憶にない消費貸借契約書の保証人」・・・ 弁護士・高井陽子
私は、ある日、消費者金融会社Aから、私の友人が同社にした借り入れの保証人になっているとして、友人の返済していない債務100万円を支払うよう請求されました。
私は、保証人になった記憶がなかったので、私はそんな契約はしていない、支払いはできないとA社に伝えたところ、同社から、私を被告として裁判所に訴え提起をされてしまいました。裁判所に提出された証拠には、友人とA社との消費貸借契約書が提出されていました。驚いたことに、その消費貸借契約書の保証人の欄には、私の名前が記載され、私の姓と同じ姓の押印がされていました。
私は、このまま支払いを拒絶し続けられるのでしょうか。A社の請求は棄却されるのでしょうか。
もちろん、あなたの身に覚えのない保証債務を支払う必要はありません。裁判では、あなたがA社との保証契約を締結していないことを主張し、A社の請求が棄却されるよう求めるべきです。
そもそも、保証契約は、保証人と債権者との保証契約によって成立しますので、第三者が勝手にあなたを保証人とする保証契約を締結することはできません。
ただし、本件では、保証人欄にあなたの名前が記載され、あなたと同じ姓の押印のある契約書が存在することは間違いなさそうです。
そこで、この記名・押印のある契約書について、裁判上どのように判断されるかも含めてご説明します。
裁判で、契約書などの文書を証拠として提出する場合、その文書の成立が真正であること(すなわち、その文書が作成者の意思に基づいて作成されていること)を立証することが必要になります。
本件ですと、A社は、A社の提出した契約書の保証人欄の記名・押印が、あなたの意思に基づいて記載され、又はあなたの意思に基づいて押印されていることを立証して、本件契約書があなたの意思に基づいて成立しているのだから、保証契約も有効に成立している、と主張する必要があります。
ここで、本件消費貸借契約書のような私文書は、「本人又はその代理人の署名・押印があるとき」には、真正に成立したものと推定されるとの定めがあります(民事訴訟法第228条1項・4項)。
では、勝手に記名・押印がされた私文書も、真正に成立したと推定されてしまうのでしょうか。
この点、「本人又はその代理人の署名・押印があるとき」とは、当該署名または押印が、作成名義人の意思に基づいて行われたこと意味するので、押印についても、文書中の印影が「作成名義人の印章」によって顕出されたものと認められる必要があります。
したがって、作成名義人が他の者と共有又は共用している印章は、「作成名義人の印章」には含まれず(最判昭和50年6月12日)、作成名義人の印章によらない押印がなされた私文書は、真正に成立したとは推定されません。
そこで、本件でも、本件契約書に押された押印が、あなたの印鑑登録証明をしている実印等、あなたの印章によるとA社が立証できない限り、あなたの名前が記載され、あなたと同じ姓の押印のある契約書には、証拠力が無く、あなたとA社との保証契約の成立を裏付ける証拠にはなりません。
そして、あなたとA社との保証契約の成立を裏付ける証拠が他にない以上、A社のあなたに対する請求は、棄却されることになります。
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