「遺留分減殺」について・・・ 弁護士・森 賢一
私は,父母と兄の4人家族です。私の父が先日亡くなりました。父の遺言には,「私(父)の遺産の全ては兄に相続させる。」との記載がありました。私も相続人の一人だと思うのですが,この父の遺言によって,私が父の遺産を相続する権利は一切なくなってしまうのでしょうか。?
あなたには遺留分として,父の遺産の8分の1を相続することが保障されています。そのため,自己の遺留分が侵害されている限度で兄に対し,遺留分減殺請求権を行使することで,自己の遺留分を確保できます。
1 遺留分制度の概要
民法では相続規定によって,遺産の相続者や相続割合が決められています。しかし,これらの規定は任意規定なので,被相続人(死亡者)の遺言等によって,自由に相続財産の処分内容を決定できます。この点,遺留分とは,一定の相続人のために相続に際して,法律上取得することを保障されている相続財産の一定の割合のことで,被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです(民法1028条,以下も民法の条文です)。そして,遺留分減殺請求とは,遺留分を侵害された者が,贈与又は遺贈を受けた者に対し,遺留分侵害の限度で贈与又は遺贈された物件等の返還を請求することです(1031条)。
2 遺留分権利者
被相続人の兄弟姉妹以外の相続人(配偶者・子・直系尊属)及びその代襲相続人です(1028条等)。この点,兄弟姉妹は遺留分権利者でないことに注意が必要です。なお,遺留分を放棄した場合には遺留分権利者でなくなります(1043条)。
3 遺留分の割合
@直系尊属のみが相続人の場合は,被相続人の財産の1/3(1028条1号)
Aそれ以外の場合は,被相続人の財産の1/2(1028条2号)
例えば,本件の質問者の場合,遺言がなければ,子としての本来の法定相続分は遺産の1/4なので,遺留分はその1/2の1/8となります。
4 遺留分の算定方法
遺留分を算定するためには,まず,算定の基礎となる被相続人の財産の範囲を確定することが必要となります。算定の基礎となる財産は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して算定します(1029条1項)。この点,相続財産に算入される贈与は,原則として相続開始前1年間になされたものに限られますが,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与した場合には,1年前の贈与であっても算入されます(1030条)。
5 遺留分減殺請求権の行使方法
遺留分減殺請求は必ずしも裁判による必要はなく,相手方に対する意思表示をもってすれば足ります(1031条,最判昭41年7月14日)。もっとも,事後の紛争回避のためには,日付や内容を明らかにしておくことが有効なので,その意思表示は内容証明郵便を用いることが一般的です。
6 遺留分減殺請求権の期間の制限
この意思表示は,相続開始及び減殺すべき贈与又は遺贈のあったことを知ったときから1年又は相続開始のときから10年を経過したときは,することができなくなるので注意が必要です(1042条)。
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