「返済期限前の支払利息」について・・・ 弁護士・梶 智史
知人から100万円を年利10パーセントで借り入れました。借り入れの期間は1年間なのですが、借りてから半年後にお金ができたので早めに返したいのですが、利息は半分払えばよいのでしょうか?
返済期限が定められているときは、期限前に返済したとしても、利息の全額を支払う必要があります。
理由
あなたは知人からお金を借りたときに、返済期限を1年後としたようですが、この返済期限のことを「期限の利益」といいます。つまり、あなたは期限が到来するまでの間、借りた100万円を自由に使える利益を有しているのであり、この利益を「期限の利益」というのです。民法は「期限の利益」について、債務者、つまりお金を借りて1年後に返済する必要があるあなたのために定めたものと推定する旨規定しています(民法136条1項)。
あなたのための利益ですから、あなたはこの利益を自由に放棄することができます。
民法には、「期限の利益は、放棄することができる。」と記載されており、債務者が期限の利益を放棄することができる旨規定されています(民法136条2項)。
ただし、民法136条2項但し書きには、「ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。」と規定されています。つまり、あなたが「期限の利益」を放棄したことによって、お金を貸してくれた知人(相手方)の利益を害することはできないのです。
相手方の利益とは、もちろん1年間100万円を貸すことによって得られる利息10万円のことです。
あなたは、相手方の利益を害することができないので、返済期限より先に返済したとしても、利息の10万円を全額支払わなければならないのです。
ちなみに、金銭を借りた場合に借主が貸主に支払う利息は、その金銭の使用の利益に対する対価であるとされています。とすれば、返済期限より先に返済した場合に元本に上乗せして支払う金額は、金銭の使用の利益に対する対価としての利息ではあり得ません(たとえば、期限の半年前に返済したのであれば、残りの半年間の使用の利益は受けていませんよね)。
この点、古い判例(大審院昭和9年9月15日)は、「民法136条の解釈は、相手方の損害を賠償して、放棄しうる旨の規定なりと解する外なきものとす」と述べており、期限が到来する前に返済した場合に支払う金銭が損害賠償の性質を有するものであると考えているようです。
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