「建物の賃貸借契約」について・・・ 弁護士・高井陽子
私は、駅前のビルの1階をフラワーショップの店舗として借りています。先日、賃貸人から、本件建物を建 て替えたいので、今回の期間満了時で賃貸借契約を終了し、本件建物を明け渡して他の店舗を探してほし いと連絡がありました。
私は、本件建物を明け渡さないといけないのでしょうか。
賃貸人が、期間の満了により、賃貸借契約を終了させることを希望する場合には、賃貸人は、賃借人に対 し、期間の満了の1年前から6か月前までの間に更新拒絶の通知をしなければなりません(借地借家法第 26条第1項)。
では、本件のように、賃貸人から更新拒絶の通知があった場合、賃借人は常に明け渡さなければならな いのでしょうか。
この点、賃貸人からの更新拒絶の通知があれば、常に賃貸人が建物を明け渡さなければならないとすれ ば、その建物で長年営業を継続し、顧客を獲得してきた店舗経営者等の賃借人にとって、また別の建物で 一から顧客獲得の努力を強いられることになり、賃借人に非常に酷な結果となってしまいます。
そこで、借地借家法第28条は、賃貸人の更新拒絶の通知は、賃貸人及び賃借人が「建物の使用を必要 とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃 貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明け渡しと引き換えに建物の賃借人に対して財産上の給付 をする旨の申し出をした場合におけるその申し出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなけれ ば、することはできない」とされています。
つまり、同条は、賃貸人の更新拒絶が認められるには、「正当事由」という一定の要件を求めることによ り、賃貸人の一方的な理由による更新拒絶を認めることを防ぎ、賃借人の利益を保護しています。また、 正当事由の判断基準を具体的に列挙することにより、正当事由の判断を容易にしています。
そこで、本件においても、借地借家法第28条記載の基準に沿って、賃貸人の更新拒絶の正当事由が認 められるかを検討することになります。
まず、「建物の使用を必要とする事情」については、当事者双方の建物の使用の必要性を比較することに なります。
次に、「建物の賃貸借に関する従前の経過」としては、賃貸借契約締結の経緯・事情、賃貸借契約の内 容、賃貸借期間中の借家人の賃料の支払い状況、賃料の相当性、その他信頼関係破綻の事実があるか どうか等を検討します。
そして、「建物の利用状況」としては、賃借人が契約目的に従って建物を適法かつ有効に使用収益してい るかどうか、などが考慮事情となります。
また、「建物の現況」としては、建物の経過年数及び残耐用年数、建物の腐朽損傷の程度、大修繕の必 要性の有無などを検討し、建替えの必要が生じているかが考慮事情になります。
最後に、「財産上の給付」としては、立ち退き料や代替賃貸不動産の提供があるか等を検討します。
このように、正当事由の判断には、多数の要素の考慮が必要になりますので、本件においても、 本件賃貸借契約の内容や経緯、本件建物の状態などから正当事由の有無を検討し、明け渡す必要がある かどうかを判断することになります。
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