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特    集

「スポーツ仲裁」・・・弁護士・伊藤祐介

はじめに
 スポーツに関しての紛争は,プロスポーツ選手の移籍や契約関係に関するものから,スポーツ事故,大会に出場する選手の選考が適正にされていたか等,多様なものが含まれている。これらの中で,紛争性のある通常の民事事件と捉えられるものについては,最終的には裁判所の審理によって法的判断を下すことができる。つまり,「法律上の争訟」(裁判所法第3条1項)に該当し,当該紛争が「一般市民法秩序と直接の関係」を有する(いわゆる部分社会の法理)ものであれば,裁判所は司法審査を行うことが可能である。
 しかし,スポーツ紛争の中には,司法審査の対象とならないと思われるものや,解決まで時間を要する訴訟に適さないものも数多く存在している。そのような場合に,スポーツ仲裁制度が利用されることがある。本項では以下,裁判所の司法審査の対象の概念を整理した上で,スポーツ仲裁制度について概括する。

1 司法審査の対象とは
 司法審査の対象となる「法律上の争訟」とは,当事者間の具体的な権利義務の存否に関する紛争であって,それが法律の適用によって終局的に解決できるものであることが必要とされる。例えば,スポーツ競技における順位・優劣等の争いについては,「法律上の争訟」に当たらず,裁判所はその訴えを不適法として却下することができる。
 次に,自律的規範を有する団体内部における紛争については,それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる場合には,団体内部の自治的・自律的な解決に委ねるのが相当として,裁判所の司法審査が及ばないとされてきた。例えば,競技団体(全日本学生スキー連盟)とこれに加盟する団体(大学)との間の紛争について,「一般市民法秩序と直接の関係を有するものではない」とした事例がある(東京地判平成22年12月1日判タ1350号240頁)。
 もっとも,団体内部における紛争について,近時,判例変更がされている。すなわち,地方議会議員に対する出席停止の懲罰処分取り消しの訴えは,これまで司法審査の対象外とされてきた(最大判昭和35年10月19日民集14巻12号2633頁)。しかし,最高裁はこの判例を変更し,「一般市民法秩序と直接の関係」を有するかには触れずに,地方議会議員に対する出席停止の懲罰処分取り消しの訴えは司法審査の対象となる旨判例変更した(最大判令和2年11月25日民集74巻8号2229頁)。事例のさらなる蓄積が待たれるところではあるが,「一般市民法秩序」とは別の切り口から,裁判所が司法審査を受け入れる事案の門戸が広がる可能性はある。

2 スポーツ仲裁とは
 スポーツ仲裁とは,当事者間の仲裁合意に基づいて,仲裁機関vスポーツ紛争の解決を図る手続である。最も有名な仲裁機関は,IOC(国際オリンピック委員会)が設置したCAS(スポーツ仲裁裁判所)であり,スイスのローザンヌに本部がある。日本における仲裁機関はJSAA(日本スポーツ仲裁機構)である。
 日本においては,競技団体の規則において,団体の決定に対する不服申し立てはJSAAの仲裁手続によると定める条項(自動応諾条項)が存在することが多い。この場合には,競技団体が個別に仲裁手続に服することについて応諾しなくとも,仲裁手続が利用可能である。仲裁の対象は,競技団体またはその機関が競技者等に対して行った決定に対する不服(取り消しを求める訴え)である。
 また,事件がJSAAに受理されると,原則として3名の仲裁人が選任され,迅速に審理が開始される。審理自体は非公開だが,仲裁判断についてはJSAAのウェブサイト上で公表することとなっている。
 なお,仲裁判断の基準として,比較的多く採用されているのが,国内スポーツ連盟の運営に一定の自律権を認め,その限度において,仲裁機関は,国内スポーツ連盟の決定を尊重しなければならないとした上で,@国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合,A規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合,B決定に至る手続に瑕疵がある場合,C国内スポーツ連盟の制定した規則自体が法秩序に違反しもしくは著しく合理性を欠く場合において,それを取り消すことができる,とするものである。

 


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