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特    集

「インターネット上における名誉棄損の損害賠償請求」・・・弁護士・吉川 愛

 人の名誉を毀損する行為は権利侵害を構成し、民法上でも不法行為責任(民法709条)により、損害賠償請求の対象となります。知り合いが痴漢行為で警察に捕まり、有罪判決を得た場合に、当該事実をインターネット上で摘示することは、例え真実であれ名誉毀損となり損害賠償請求の対象となり得るのです。
 摘示された事実が公共性の利害に関わり、その行為が専ら公益を図る目的であり、摘示された事実が重要な部分において真実である場合には、違法性が阻却され損害賠償責任を負いません。これは刑法における名誉毀損罪の構成要件を前提に作られた判例上の理論として確立しています。また、この要件における「摘示された事実が重要な部分において真実」の部分においては、仮に真実でなかったとしても、行為者が真実と信じ、そう信じることについて相当の理由があるときは過失が否定されるというのも判例において確立されています。真実であるか否かの判断は、裁判の口頭弁論終結時において判断しますが、真実性の立証における真実と信じたことについて相当の理由があることについては、当該行為時に確認していた事実関係や資料に基づいて判断されます。報道によって裁判中に有罪が確定した場合に真実性を立証ができることはあり得ますが、行為時に存在しなかった事実や資料を基に相当性が判断されることはない、ということになります。
 なお、あの人はバカだ、など、事実の摘示のないものは、名誉感情の侵害として侮辱とはなり得ますが名誉毀損にはなりません。事実の摘示をした上で、その事実に対する意見を表明する、いわゆる論評と呼ばれる行為については、裁判例では名誉毀損を構成するものとし、その論評が公共の利害に関する事実にかかり、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合において、その論評の前提としている事実が重要な部分において真実であることの証明があったときや、当該事実が真実であると信じたことについて相当な理由がある場合には、人身攻撃に及びなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り同様に損害賠償責任を原則として負わないこととされています。
 近年、インターネット上、特にSNSなどを利用した事実の拡散や論評、さらには誹謗中傷が目立っています。インターネット上における情報を鵜呑みにして、当該事実を真実と思い拡散したり当該事実を前提に論評をする行為は、基本的に行為時に真実と信じるにつき相当な理由がある、とは言えないため、名誉毀損が成立する可能性が十分にあります。新聞の報道においても、新聞であるから正しい、という理屈はないため、これだけをもって相当性が認められるということにはなりません。前述した通り、名誉毀損は摘示事実が真実かどうかに関わらず成立しますが、仮に報道やネット上の情報を信じ、当該事実が公共性のあるものであると信じて拡散をしたとしても、当該事実が真実ではなかった場合、民事のみならず刑事においても責任を問われる可能性があります。
 名誉毀損については、被害者の社会的地位を低下させるような事実を流布することが要件となっていますので、密室において対面かつ口頭で発言をしたような場合には成立しません。特定の人しか見られない閉鎖的なSNSグループの場合、密室と似たような関係性にありますが、絶対に特定の者しか閲覧できないとは言えない場合や、容易に第三者への伝播可能性があるような場合には、名誉毀損の不法行為が成立する余地があります。SNS上で、特定の人物の名前を指摘せず対象が抽象的である場合であっても、ある程度の社会的な範囲で被害者となるべき人物が特定される場合には、法的責任を問われる可能性もあります。 参考として、被害者の必要かつ十分な反論の機会があるような場合には、社会的評価の低下が否定されるとして、名誉毀損の成立を否定する意見もあり、これを重視したと思われる裁判例も存在します。言論により名誉を毀損された者が、対抗言論により名誉の回復が可能であれば、当人達の自由な言論に委ねるべきである、という考え方です。インターネット上の発言は様々な形態があり、対抗言論の理論が一律に認められることはないと思われますが、反論可能性や反論による回復の可能性を考慮して名誉毀損の成否を判断することは今後も議論されていくこととなると思われます。
 インターネットにおける情報共有はとても便利で有益なものですが、加害者にも被害者にもならないために、十分に気をつけて利用することが肝心です。

 


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