「親子に関する最近の民法改正」・・・弁護士・水野賢一
令和4年12月10日、嫡出子推定制度の見直し等を内容とする民法等の一部を改正する法律が成立し(「令和4年改正」といいます)、令和6年4月1日から施行されました。また、令和6年5月17日、父母の離婚後等の子の養育に関する見直しを内容とする民法等の一部を改正する法律が成立しました(「令和6年改正」といいます。公布から2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行)。今回は、これらの二つの民法改正の主な内容を紹介します(改正のすべてを網羅していないことをご容赦ください)。
無戸籍問題の解消(令和4年改正)
婚姻の解消等の日から300日以内に生まれた子は、前夫の子と推定されます(民法722条2項)。このため、離婚をした女性が再婚をして出産した場合でも、離婚後300日以内に生まれたときには、出生届をすると前父の嫡出子として戸籍に記載されます。これを避けるために、再婚後の出産では、離婚後300日以内に生まれた子の出生届をしないことがなされ、無戸籍となる子がいました。この無戸籍問題を解消するために、令和4年改正では、女性が懐胎から子の出生までの間に2以上の婚姻をしていたときは、出生の直近の婚姻の夫の子と推定することにしました(民法722条3項)。これにより、再婚後に生まれた子は、出生届によって再婚した夫の嫡出子として戸籍に記載されるようになりました。この嫡出推定規定の改正に伴なって、女性の再婚禁止期間を定める規定は廃止されました。
また、令和4年改正は、嫡出否認制度の見直しも行って、夫にしか認められていなかった否認権を子や母にも認めるとともに出訴期間を3年としました(民法774条、775条)。
加えて、令和4年改正の施行日(令和6年4月1日)から1年間に限り、施行日前に生まれた子の嫡出否認の訴えを、子や母に認めました(令和4年改正附則4条2項)。1年間という限定はありますが、令和4年改正の施行日前の出生によって前父の子と推定されている状態による無戸籍も、解消できるようにしたのです。
懲戒権の廃止(令和4年改正)
親権を行う者に懲戒権のあることが、児童虐待を正当化する口実に使われることがありました。このことから、令和4年改正は、懲戒権を廃止しました。そして、親権が子の利益のためにあることを明確にするため、子の人格を尊重するなどの規定を設けました(民法821条)。
共同親権(令和6年改正)
現行の民法は、父母が離婚するときはその一方を親権者と定めるとしていますが、令和6年改正は、父母が離婚するときはその双方又は一方を親権者と定めるとしました(民法819条1項2項)。これにより、令和6年改正が施行されると離婚後の親権者については、共同とするか単独とするかの選択ができるようになります。もっとも、共同親権が子の利益を害する場合には単独親権となります(民法819条7項)。
令和6年改正では、親権は子の利益のために行使しなければならないとするとともに(民法818条)、婚姻中を含めた親権行使に関しての整備がなされ、監護及び教育に関する日常の行為や子の利益のため急迫な事情があるときなど、親権の単独行使が可能な場合の明確化がなされました(民法824条の2)。
また、令和6年改正では、婚姻関係の有無に関わらず、子の人格を尊重するなどの父母が子に対して負う責務の規定も新設しました(民法817条の12)。
養育費(子の監護費用・令和6年改正)
令和6年改正は、養育費(子の監護費用)に先取特権を付与しました(民法306条3号、308条の2)。これにより、令和6年改正が施行されると養育費(子の監護費用)については、債務名義がなくても差押えが可能となります。また、離婚後における子の最低限度の生活の維持を図るため、令和6年改正では、法定養育費(子の監護費用)制度を導入しました(民法766条の3)。
|