「ファッション・ロー」・・・弁護士・伊藤祐介
ファッション・ローとは,あまり馴染みのある言葉でないかもしれません。と言うのも,ファッション・ローという固有の名前の法律は,日本には存在していません。
けれども,ファッション業界に関連する諸法令等が,ファッション業界における法的問題と合わせて語られるとき,これら諸法令のことを総称して,ファッション・ローと呼ぶことがあります。
ファッション・ローとして扱われる法律のうち,主なものは@著作権法(アート等を保護する法律),A意匠法(デザインを保護する法律),B商標法(ロゴを保護する法律),C不正競争防止法(不正な手段による競争の差し止めや損害賠償を認める法律)などです。また,ファッションブランドを広告宣伝する「人」に着目した場合,タレントやモデルのパブリシティ権や,所属事務所とのいわゆる専属契約なども合わせて問題となることがあります。
ファッションと聞いて,まず思い浮かぶのは衣服ですが,衣服については,著作権法や意匠法で保護される場合があります。なお,いわゆる「応用美術」(商業的な芸術作品のこと。衣服も含まれうるものです。)について,著作権法と意匠法の保護範囲が重複する事態が生じることもあります。しかし,「応用美術」が保護される場面と,「純粋美術」が商業的に利用される場面(中山信弘『著作権法〔第2版〕』168頁「ティシャツは実用品であり意匠法の適用を受けるが,その胸に描かれている絵については著作権法の適用を受けることには異論がないであろう」)とはしっかりと区別すべきです。
意匠法は,商品の「形状」等のデザイン,フォルムを保護する法律です。しかし,意匠法の保護を受けるためには,特許庁に対して意匠登録出願(意匠法第6条)を行い,登録されなければいけません。登録がされていなければ,不正競争防止法の保護を受ける余地はありますが,意匠法の保護対象外となります。これと異なり,著作権法の保護を受ける場合は,著作物を創作することのみで足り(無方式主義,著作権法第17条),著作者は創作と同時に,著作者人格権及び著作権が帰属します。
また,ブランドのロゴ(例えば,NIKEのマーク)は商標法によって保護されます。もっとも,商標法の保護を受けるためには,意匠法の場合と同様に,特許庁に対して商標登録出願(商標法第5条)を行い,登録されなければいけません。登録がされていなければ,これも意匠法の場合と同様に,不正競争防止法の保護を受ける余地はありますが,商標法の保護対象外となります。
不正競争防止法については,例えば,他人のデザインを勝手に流用して自分の商品として販売した場合等に,流用された方が,差し止めや損害賠償請求を行うことを可能にしています。意匠登録や商標登録がされていない商品等が勝手に利用販売等されている場合の救済を可能にしています。
タレントやモデルのパブリシティ権については,法律に規定はありませんが,一般に,著名人の肖像等を用いて商業的に顧客を吸引する権利をパブリシティ権と言います。しかしながら,これがどのような内容の権利かについては,はっきりと規定されていません。
最高裁判例(最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁「ピンクレディ事件」)では,「肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」と言う。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成する」として,パブリシティ権は人格権に由来すると判断していますが,パブリシティ権を財産権としても捉えている裁判例も複数散見されるところです。
人格権と財産権とで何が異なるかと言うと,人格権は一身専属的(他者に譲渡できませんし,相続の対象にすらなりません。)ですが,財産権は他者に譲渡できます。そして,芸能事務所は通常,専属契約の中で,パブリシティ権を包括的にタレント等から事務所に譲渡させる契約を結んでいますが,パブリシティ権が人格権だとすると,そもそも事務所に譲渡できないのでは…?といった疑問が生まれます。
実務では,パブリシティ権については,財産権であることを前提に,慣例に従って取引している,といったところでしょう。また,著作権法上の,著作者人格権もはっきりしていない問題(法人に著作者人格権は帰属するのか,著作者人格権不行使条項は法的に無効ではないのか等)があり,あえて,はっきりさせない状態で慣例に従って取引されている状態は,パブリシティ権と同様です。
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