「商品先物取引法」・・・弁護士・吉川 愛
1 皆様は金融商品取引被害、というと何を想像されるでしょうか。「上場間近の株をあなただけに購入する権利を与える」「ある投資運営会社に対する出資をすれば、すばらしい利回りで運用益が戻ってくる」「金を購入する権利が安く買える」などが想像できるでしょうか。一般的に、金融商品の取引については、一般消費者が様々な被害を被ってきた歴史があります。これを保護するため、日本には様々な法律があります。具体的な法律を挙げると、金融商品取引法、商品先物取引法、金融商品販売法、消費者契約法、特定商取引法などが挙げられます。
今回はこのうち、商品先物取引法について概要を説明したいと思います。
2 商品先物取引法は、国内、海外、店頭商品全てのデリバティブ取引について規制しています。デリバティブ取引とは、一般的に、元になる金融商品について、将来売買を行なうことをあらかじめ約束する取引(これを「先物取引」といいます)や将来売買する権利をあらかじめ売買する取引(これを「オプション取引」といいます)のことを言います。また、これらの取引を複雑に組み合わせるような取引もあり、多種多様です。
もともと、商品先物取引法は、商品取引所法が改正されたものです。その後、何年にもわたって改正が繰り返されています。これは、先物取引やオプション取引において、再三の強行な勧誘をして面談を行わせた上、十分な説明もないまま取引を開始させ、知識のない一般消費者に対して多大な損害を被らせる事態が多く発生したことによります。
まず、国内、海外、店頭商品のデリバティブ取引を業として行うものは、「商品先物取引業者」として監督官庁から許認可を得る必要があるとされています。また、当該取引の媒介行為(仲介)を行うことを業とするものを「商品先物取引仲介業」として、登録制としています。
これらのことから分かるように、商品先物取引法の対象となる取引を扱う業者は、許可を得ない限り金融商品の販売を行うことはできません。許可登録のない業者との取引についてはまずすべきではありません。
そして、当該取引を扱うことを業とする業者には様々な行為規制がされています。主だったものは以下の通りです。
(1)全体的な行為規制
・ 顧客財産を分離保管する
・ 断定的判断の提供を禁止する
・ 迷惑な勧誘を禁止する
・ 作為的相場形成を禁止し、差玉向かい(故意に自己取引を受託取引に対等させる行為、顧客との間で利益相反が生じうる行為)を設定する場合には説明義務を負う
(2)プロの投資家を除いたアマに対する行為規制
・ 適合性の原則(顧客の知識、経験、財産の状況、金融商品取引契約を締結する目 的に照らして、不適当な勧誘を禁止)
・ 両建て取引の勧誘禁止
・ 広告規制、説明義務、意思確認の義務、書面交付義務
(3) 個人に対して店頭商品デリバティブ取引を行う業者に対する行為規制
・ 不招請勧誘(店頭においても、積極的にデリバティブ取引の勧誘をすることを禁止)
・ 金銭の分離保管方法として金銭信託を規定
・ 証拠金倍率規制として、想定元本の5%以上の証拠金の預託を義務付け
・ 勧誘目的を明示しないセミナー等の禁止
3 このように法律を整備しても、例えば現物としての金の売買であるという形式で、デリバティブ取引ではないことを前提に強行な勧誘をしたり、分割で金を購入するという勧誘のもと、一般消費者からお金をだまし取る悪徳業者が後を絶ちません。具体的な例としては、金を大量に購入する売買契約を締結し、はじめに一定の金員と手数料を支払い、その後かなりの回数の分割払を経て、5年後や10年後に金を手に入れるという契約などが挙げられます。解約の際には、その時の金の価格を前提に差金決済がなされる仕組みとなっています。分割金支払完了後に、その会社がしっかり金を購入する余力などあるわけもなく、また途中解約の際にも、現実に金を購入している訳ではありませんので、契約当時より金の値段が上がっていれば会社は損をすることになるため、この契約自体はじめから利益相反を前提とする契約となっています。裁判例でもこのような形態の契約は、差金決済を前提とする先物取引に類似する取引として商品先物取引法の規制にかかるとしています。少し考えれば分かるところであろうと思いますが、このような業者は巧みに高齢者などを話術で騙して契約をさせます。また、このような会社は名前を変えて何度も現れて利益を得たら消えていきます。
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