「自動運転車のリスク」・・・弁護士・齋藤崇史
昨今の、AIの技術革新とともに各種サービス、IoT技術などの向上により、実際に私達の生活にも大きな変化、影響が出始めております。今回は、自動運転車の交通事故による法的責任について、概説したいと思います。
第1 自動運転レベルと過失責任(自動運転に係る制度整備大綱平成30年4月17日より)
1 レベル0(運転自動化なし)
運転者が全ての動的運転タスクを実行する。安全運転に係る監視、対応主体は運転者であるため、過失責任は、変わらず運転者にある。
2 レベル1(運転支援)
システムが縦方向又は横方向のいずれかの車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行する。レベル1においても、レベル0同様に安全運転に係る監視、対応主体は運転者であるため、過失責任は、変わらず運転者にある。
3 レベル2(部分運転自動化)
システムが縦方向及び横方向両方の車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行する。レベル2においても、レベル0同様に安全運転に係る監視、対応主体は運転者であるため、過失責任は、変わらず運転者にある。
4 レベル3(条件付運転自動化)
システムが全ての動的運転タスクを限定領域において実行する。作動継続が困難な場合は、システムの加入要求等に適切に応答する。レベル3以上においては、自動運転システムが(作動時は)全ての運転タスクを実行するため、安全運転に係る監視、対応主体はシステムとなる。そのため、運転者とシステムとの権限移譲の限界の問題が生じる。
5 レベル4(高度運転自動化)
システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を限定領域において実行する。レベル4においては、レベル3以下と異なり、安全運転に係る監視、対応主体は完全にシステムとなるため、過失責任の主体に変化が生じうる。
6 レベル5(完全運転自動化)
システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を無制限に(すなわち、限定領域内ではない)実行する。レベル5においても、レベル3以下と異なり、安全運転に係る監視、対応主体は完全にシステムとなるため、過失責任の主体に変化が生じうる。
第2 問題意識
1 過失責任の原則は近代法制の基本原理であること
2 民事上の責任
過失を前提としつつも、被害者救済及び損害の公平な分担(損害の補填)の観点から、過失を前提としない法的責任を以下の理由で制度設計可能
(1)危険責任とは、危険を作り出している者は、損害賠償をすべきという考え方
(2)報償責任とは、利益を上げる過程で損害を与えた者は、損害賠償すべきという考え方
(3)信頼責任とは、信頼に反して損害を与えた者は、損害賠償すべきという考え方
自賠法=危険責任+報償責任
PL法=危険責任+報償責任+信頼責任
自賠法とPL法の適用可能性を検討
3 刑事上の責任
刑事責任の目的は、社会秩序維持の観点からの加害者に対する制裁
故意犯処罰が原則で、過失犯処罰は例外的(刑法38条1項)
過失責任の原則を維持→システムに対する信頼がどこまで許容されるか?
4 以上のような点が各種実務上の問題として散見される。
第3 具体的事例
1 2016年5月7日発生のTESLA社の事故
本件は、制限速度を時速9マイル(約14キロ)上回る74マイル(約119キロ)で走行中に、前方で車線変更したトレーラーを感知できず、トレーラーの側面からコンテナ部の下に巻き込まれる格好で衝突した事案である。トレーラーの車高が高く、前方監視カメラが、強い日差しの眩しさのためトレーラーの側面を認識できなかったため衝突した。
運転手は、DVDを視聴し、自動運転の機能を使用していた37分間のうち、ハンドルに触れていたのがわずか25秒間で、車のシステムが何度も警告したにもかかわらずハンドルを握ろうとしなかった。最終的に自動運転の機能には欠陥はないが、手放しをしばらく続けるなどメーカーが想定していない状況でも自動で走行できる車の設計が自動運転への過信を招いたとも指摘し、運転手とメーカー側の双方に原因があったと結論付けられた。
2 2018年3月18日発生のUBER社の事故
本件は、夜間走行の実証実験中の事故である。衝突時の自動運転車の速度は約60km、衝突の0.9秒前に15mの距離での権限移譲があり、サポートドライバーが乗車していた事案である。同社は独自のセンサーフュージョンのソフトウェアを搭載していた。
本件は、民事訴訟となったため、その民事責任に対する判断に注目を集めたが、和解により終結した模様、裁判所による判断はなされなかった。
第4 御拝読の皆様には、事故責任、新規事業などのアイデアやリスク、リスクとの付き合い方を考えて頂ければと思います。
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