「近時施行の身近な法律」・・・弁護士・関 友樹
元号が平成から令和になり数か月が経ちます。そのような時代の移り変わりとともに、法律も時代に合わせて改正や立法がされていきます。今回の特集では、約1年後の民法債権法の大改正を前に、近時施行された気になる法律を二つ取り上げたいと思います。
1 不正競争防止法改正
不正競争防止法とは、事業者間の適正な競争を促進するため、類型化された「不正競争行為」に対して民事や刑事における救済措置を定める法律です。改正の背景は、付加価値の源泉となる「データ」の利用活用を活発化する必要性が高まっているところ、データ提供への動機づけ、契約の高度化支援、安心してデータを取引できる環境整備、関連技術の研究開発、人材育成など、各般にわたる施策を一体的に推進することが政策として掲げられたことによります。すなわち、不正競争防止法はかかるデータの共有活用のうち、安心してデータの提供利用ができる環境の整備のために、新たな改正がされることになったのです。
今回特に7月1日から、新たな「不正競争行為」として限定提供データの不正取得が加えられることになりました。
「限定提供データ」は改正後不正競争防止法第2条第7項に定義され、「業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)をいう」とされています。要件は@限定提供性、A電磁的管理性(ID/パスワード等)、B相当蓄積性と覚えてください。
かかる定義ではイメージがわきにくいと思いますが、経済産業省の資料によればイメージとしては「主として、企業間で複数者に提供や共有されることで、新たな事業の創設につながったり、サービスや製品の付加価値を高めるなど、その利活用が期待されているデータが念頭に置かれています。具体的には、@データ分析事業者が扱う機械稼働データ、A自動車メーカーが扱う車両の走行データ、B調査会社が扱う消費動向データ、C携帯談話会社が扱う人流データ、D法律情報提供事業者が扱う裁判の判例データベースなどが挙げられています。これらの共通点は、第三者提供の禁止など一定の条件の下で、データ保有者が、できるだけ多くの者に提供するために電磁的管理(ID・パスワード)を施して、提供するデータということです。このように「限定提供データ」はそれまでの営業秘密(秘密として管理されている非公知な情報)や著作権(創造性が認められる情報)の隙間にあり保護が不十分であった、他社との共有を前提に一定の条件下で利用可能な情報を保護するために、新たに不正競争防止法による保護の対象にしたということです。
そして不正競争防止法は、「限定提供データ」について悪質性の高い、不正取得・不正使用等に対する救済措置として、必要最小限の民事措置(差止請求、損害賠償額の推定等)を導入しました。特徴として、営業秘密の不正競争行為と異なり、不正使用により生じた物の譲渡等は規制の対象にならないことや、刑事措置がとられていないということです。
以上みてきたように、7月より新たに「限定提供データ」が不正競争防止法上の保護の対象となりました。適用される範囲は、営業秘密の場合と比べて限定的といえますが、具体的にどのような行為が限定提供データの不正競争行為に当たるかは事例の蓄積が必要になるかと思います。
2 チケット不正転売防止法の施行
令和元年6月14日から「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(略称チケット不正転売禁止法)が施行されることになりました。
かかる法律は、通常の販売価格を超える金額で興行主の事前の同意を得ずに特定興業入場券を業として有償で譲渡する行為を禁じています。「特定興業入場券」とは興業入場券であって、不特定又は多数の者に販売され、@興行主等が、販売時に、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨を当該入場券の券面等に表示し A興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者又は座席が指定され B興行主等が、販売時に、入場資格者又は購入者の氏名及び連絡先を確認する措置を講じ、かつ、その旨を当該入場券の券面等に表示しているもののことをいいます。
違反者は、1年以下の懲役もしくは10年以下の罰金が科されることになります。いわゆるダフ屋などに対する規制立法といえます。
「特定興業入場券」の定義が厳格ではありますが、ラグビーワールドカップや東京オリンピックなど今年から来年にかけても今後国を挙げた重要な興業が予定されている中で、かかる新たな法律がどのような影響を与えていくのか注目されます。
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