「成年後見制度利用促進法・円滑法」
・・・弁護士・高井陽子
成年後見制度は、認知症、知的障がい、精神障がい等の理由によって判断能力が不十分な人を、成年後見人等が財産管理や身上監護を通じて保護し、支援していく制度です。
成年後見制度は、平成12年4月に導入され、現在まで成年後見制度の利用者は増加してきました。しかしながら、成年後見制度による保護が必要な人の多くはこの制度を利用しておらず、まだ同制度が社会に浸透していないのが現状です。今後、高齢化社会に伴い、成年後見制度の利用が必要と考えられる人がますます増加すると予想されることを考えると、いかに同制度を通じて保護が必要な人を保護し、支援していくかが重要な課題となります。
そこで、かかる課題に対処すべく、平成28年4月8日に成年後見制度の利用促進法(以下「利用促進法」といいます。)が成立しました。
また、これまでの成年後見制度の運用上の課題も修正するべく、同月6日に成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(以下「円滑化法」といいます。)が成立しました。
1利用促進法について
(1)基本理念
利用促進法では、基本理念として、成年後見制度の利用の促進は、@成年後見制度の理念の尊重(ノーマライゼーション、自己決定権の尊重、身上の保護の重視)、A地域における成年後見制度の需要に的確に対応すること、B家庭裁判所、関係行政機関、地方公共団体、民間の団体等の相互の協力及び適切な役割分担の下に、成年後見制度の利用に関する体制を整備すること、の3つの基本理念を旨として行われるべきだとしています(利用促進法3条)。
(2)基本方針
そして、上記3つの基本理念の下、次の11の基本方針が定められています(利用促進法11条)。
@補佐及び補助の制度の利用を促進する方策を検討し、必要な措置を講ずること
A成年被後見人等の権利に制限が設けられている制度について検討を加え、必要な見直しを行うこと
B成年被後見人等の医療に関する意思決定が困難な者への支援のあり方について、必要な措置を講ずること
C成年被後見人等の死亡後における事務の範囲について検討を加え、必要な見直しを行うこと
D任意後見制度が積極的に活用されるよう、必要な制度の整備その他の必要な措置を講ずること
E成年後見制度について、国民に対する周知及び啓発のために必要な措置を講ずること
F地域住民の需要に的確に対応するため、必要な措置を講ずること
G地域において成年後見人等となる人材を確保するために必要な措置を講ずること
H成年後見人等またはその候補者の育成および支援等を行う成年後見等実施機関の育成等同機関の活動に対する支援のために必要な措置を講ずること
I家庭裁判所、関係行政機関および地方公共団体における必要な人的体制の整備その他必要な措置を講ずること
J関係機関等の相互の緊密な連携を確保するため、成年後見制度の利用に関する指針の策定その他必要な措置を講ずること
(3)このほかにも、利用促進法では、政府に施策の実施状況を公表させるなど(促進法10条)、成年後見制度の利用促進に向けた義務も規定しています。ただ、利用促進法で規定されていることは、あくまでも利用促進に向けた方針や仕組みづくりに重点がおかれたものですので、今後具体的な措置が講じられることが期待されます。
2円滑化法について
(1)成年後見人による郵便物等の管理
家庭裁判所は、成年後見人がその事務を行うにあたって必要があると認めるときは、成年後見人の請求により、信書の送達の事業を行うものに対し、期間を定めて成年被後見人にあてた郵便物等を成年後見人に配達すべき旨を嘱託できるようになりました(民法860条の2)。
また、成年後見人は、成年被後見人にあてた郵便物を受け取ったときは、これを開いてみることができる旨が明文で定められました(民法860条の3)。
(2)成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限
本人死亡後の事務に関しては、従来応急善処義務的規定(民法874条、876条の5第3項及び876条の10第2項による654条の準用)があるだけでした。この点につき、成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、@相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為、A相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済、Bその死体の火葬または埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(Bのみ家庭裁判所の許可が必要)を行うことができるとされました(民法873条の2)。
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