「学校における生徒間のトラブルについて学校が責任を負う場合」
〜「いじめ」問題を中心に〜・・・弁護士・梶 智史
1 学校における生徒間のトラブルとして,最も重大な結果をもたらすものに,「いじめ」があります。
「いじめ」とは,「いじめ防止対策推進法」(平成25年9月28日施行)によれば,「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」とされています。すなわち,児童・生徒の間で行われるものですから,学校が「いじめ」について,何らかの責任を負うことはないようにも思われます。
しかし、裁判例上は、児童・生徒と学校との間には、「在学契約」が締結されており(公立学校の場合は「特別な関係がある」としています)、同契約に基づく一般的な義務として、学校には児童・生徒の心身の安全に配慮すべき義務(安全配慮義務とか安全保持義務とかいわれます。)があるとされています。
つまり学校は、「いじめ」という児童・生徒の心身の安全に重大な影響を与える事態が生じないように配慮するとともに、いざこのような事態が生じた場合にはこれに適切に対処するなどといった義務を負うことになるのです。
また,「いじめ」に留まらず,生徒間のケンカについても,上記安全配慮義務を根拠に学校側の責任を認めた事例があります。例えば,仙台地裁平成20年7月31日判決は,中学校1年生の生徒が,別の生徒に自在箒を投げつけた結果,当該生徒の右眼を損傷させたという事件について,学校は「生徒である(被害生徒)の生命,身体などの安全について万全を期すべき義務を負っていた」とした上,学校は「(加害生徒)の性格に内包されていた自己抑制力の乏しさに伴う危険性及びそれによって他の生徒の生命,身体に危害が及ぶ危険性を具体的に認識していたというべきである。」として,被害生徒の学校(設置者である町)に対する請求を認容しました。
以上のように,学校は,安全配慮義務という義務を負う結果,児童・生徒の身体,生命や精神に危険が及ぶ可能性があることを認識していた場合には,これを防ぐことを要請されており,危険を認識し得たにもかかわらず,結果防止の措置をとらなかった場合には,危害を被った児童・生徒からの損害賠償請求をされるおそれがあることになるのです。
2 前掲の「いじめ防止推進法」は,児童等の心身等に対し重大な被害が生じた疑いがあると認めるときは,事実関係を明確にするための調査を行うことを義務づけるとともに、国、地方公共団体に対する報告義務を課しています。
さいたま地裁平成20年7月18日判決は,私立中学校の男子生徒が自殺したという事件において,「学校は,在学契約に基づく付随的義務として,信義則上,親権者等に対して,生徒の自殺が学校生活に起因するのかどうかを解明可能な程度に適時に事実関係の調査をし,それを報告する義務を負うというべきである。」として,学校が自殺の原因について調査・報告義務を負うことを認めています。
いじめ防止対策推進法及び上記の裁判例からすれば,学校には,「いじめ」が生じているのではないかと思われる事実を認識した時点で,十分な調査をし,「いじめ」を止めさせることが強く要請されているものといえます。
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