「居住用賃貸借契約について」・・・弁護士・花田 行央
1 借家に関する賃貸借契約は,多くの方が接する機会の多い契約であるとともに,賃料の不払いや更新などでトラブルの多い契約の一つです。そこで,今回は借家契約,特に定期借家契約と普通借家契約に関する相違などについて説明していきます。
2 普通借家契約
ここに言う普通借家契約とは借地借家契約の適用のある借家契約を意味します。 その特徴としては,@契約期間が満了しても貸主側が正当理由を具備しない限り更新を拒絶できないA正当事由を具備していない場合には借家契約が法律により更新されるということが挙げられ,借家人の保護が図られているということにあります。 このような規定が置かれた趣旨は借家人にとって,当該借家が生活の本拠地であり,一般的に借家人の地位が貸主の地位と比べて弱いため,その保護が必要であるからとされています。
3 定期借家契約
ここに言う定期借家契約とは,更新制度のない借家契約であり,借地借家法38条の適用を受けた借家契約を指します。定期借家契約は,契約期間の満了により当然に終了するため,普通借家契約に比べて,貸主にメリットがある制度だとされており,平成12年3月1日から施行がされています。
定期借家契約は,一時的な海外出張などで,一定期間だけ自分の持家を貸したいという貸主や一定期間の後には建物を取り壊す予定のある建物の場合などのニーズから創設されたものです。
定期借家契約は,借主は契約期間満了後,当該借家を退去しなくてはならず,この点で普通借家契約より不利となります。そのため,あらかじめ貸主が借家人に対して,賃貸借契約には契約の更新がなく,期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて,その旨を記載した書面を交付して,説明をしなければならないとされており(借地借家契約法38条2項),これがないものは普通借家契約として扱われますので留意が必要です。なお,借地借家契約法38条1項は,定期借家契約について,「公正証書による等書面によって契約をするときに限り,〜契約の更新がないこととする旨を定めることができる」と規定していますが,必ずしも公正証書により契約を締結しなければならないというわけではなく,書面での契約で足ります。
また,更新がないのが定期借家契約の特徴ですが,同じ借家人と当該建物について再契約を締結することが禁じられているわけではありませんので,再契約をすることは可能です。
4 普通借家契約から定期借家契約への切り替えの問題
貸主としては,定期借家契約であれば,借家人に何らかの問題があったとしても,契約満了後には必ず退去を求めることができるため,定期借家契約を締結するメリットがあります。また,定期借家契約の場合,更新という概念がないため,更新料を得ることはできないですが,これに代わり再契約料を受領している実例もあるため,貸主としてはデメリットが少ないとも言えます。
そこで,普通借家契約を定期借家契約に切り替えることはできるのかが問題となります。
まず,平成12年3月1日以前に契約を締結した居住用建物賃貸借契約については,たとえ当事者間で既存契約を合意解約して,新たに定期借家契約を締結することによっても,切替えはできないとされています。この切替え制限規定は,定期賃貸借契約制度導入の際に,移行準備期間として設けられたものですが,現在もなお廃止されていません。
この切替え制限規定を逆に解釈すれば,平成12年3月1日以降に契約した普通借家契約については,一度合意解約の上,定期建物賃貸借契約に切替えることは契約自由の原則からしても可能であると思われます。しかし,一般に貸主の立場が強いと言われ,借家人の保護が必要である借家契約において,契約自由の原則のみをもって,いかなる切替えも有効であると言えるかは疑問です。特に,従前の普通借家契約と定期借家契約の内容や賃料が殆ど変わらず,更新料も名目上,再契約料として徴収されることが前提となっている場合や切替え時の交渉の対応などによっては,切替えが無効となる場合もあると思われます。
そのため,貸主としては,普通借家契約を定期借家契約に切替える際は,そのように切替えを行う必要性や合理性などにも留意の上,借家人にも配慮の上,慎重にこれを行う必要があります。また,借家人としては,このような切替えを求められた場合,そのデメリットにも十分配慮の上,慎重に契約を行うことが必要です。
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