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「ハーグ条約」・・・弁護士・吉川 愛

 ハーグ条約(正式名称は「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」と言います)。は、昭和55年10月にハーグ国際司法会議で採択されていますが、日本は長い間これを批准していませんでした。平成25年5月に、ハーグ条約を締結することについて国会で承認され、同年6月には、条約締結に伴う国内実施法(ハーグ条約実施法)が成立しました。このハーグ条約実施法は、平成26年4月1日に施行されています。今回はこのハーグ条約実施法について、中心的な部分に限定してお話したいと思います。

1 趣旨
  ハーグ条約は、「子の監護に関する事項において子の利益が最も重要であることを深く確信し、不法な連れ去り又は留置によって生ずる有害な影響から子を国際的に保護することを目的」としています(ハーグ条約前文)。
  ハーグ条約の趣旨から、A国で結婚し、子を設けていた夫婦と子供のうち、例えば母親が、法的な根拠なく子を自国などに連れてきて生活をしているような場合に、A国にいる父親の方から、一定の要件を満たすことにより、子の居住国への返還の請求をすることができることが求められています。また、子のために、父親が子と面会をすることを求めることも求められています。ハーグ条約実施法は、これらを日本国内で実施するために作られた法律です。

2 適用範囲
  子が16歳に達していないこと、子が条約締結国の常居所を有していたこと、不法な連れ去り、留置の時点で、常居所地国と連れ去れた先の国との双方において条約が発効していること、子が条約締結国内に所在していることを満たすことが必要です。

3 子の返還申立
  @子が日本国内に所在しており、@常居所国の法令によれば、連れ去り又は留置が、申立人の子に対する監護の権利を侵害するものであること、B連れ去りの時又は留置(旅行や一時帰国などの目的で渡航し、その後戻らないなど)の開始の時に、常居所国が条約締結国であったこと、が満たされている場合には、日本の裁判所は、申立人に対して、子の返還を命じなければなりません。
  ただし、全ての事例で裁判所が子の返還を命じるのではなく、返還拒否事由に該当すれば、裁判所は要件を満たしていても、子の返還を命じてはならないこととなっています。具体的には、連れ去り又は留置の時から一年が経過していて、子どもが安定した生活をしていたり、連れ去り又は留置の前に申立人が具体的に監護をしていなかったという事案であったり、既に申立人からの同意を得ている事案であったり、子がある程度大きい場合に子が返還を拒んでいるような事案であったり、その他子どもに危険が及ぶ可能性がある場合などが条文に規定されています。
  なお、命令が出た時の履行の方法としては、まずは任意の履行を促し、次に強制執行として間接強制(引き渡さない場合に、義務者に金銭的制裁を加える)、これでも従わない場合に代替執行手続(執行官により、子の監護をとき、子を常居所国に返還するために必要な行為を行う)が行われることとなります。

4 出国禁止命令
  返還申立手続き中に、子を監護している親が、子を連れてまた海外に行ってしまうなどの恐れがあるときに、申立により、裁判所から子を出国させてはならないことを命ずることを求めることができます。
  この申立が認められ、子がパスポートを持っている場合には、裁判所は、申立により、外務大臣へのパスポートの提出を命じることとなっています。

5 中央当局(外務省)の役割
  ハーグ条約締結国は、子の迅速な返還を確保し、それぞれの国内における権限のある当局の間の協力を促進する役割を中央当局に担わせるとしており、日本では外務省がこれを担っています。
  外務省の役割は様々ですが、上記目的を達成するため、子の所在を特定したり、子の任意の返還を確保し、友好的解決をもたらす努力をしたり、様々な機関の統制をとって情報交換をしたりすることとなります。

 


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