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「賃借人の自殺と連帯保証人の責任」・・・弁護士 花田行央

 身近な法律関係の一つとして,賃貸借契約があります。自分が家を借り,賃借人となることは勿論,連帯保証人となることもあるでしょう。しかし,連帯保証人になる際,どこまでの責任を負う可能性があるのかきちんと認識しているでしょうか。家賃滞納や退去時の原状回復費用などの負担以外にも責任が発生する場合はあります。今回は,少しイレギュラーな事例ですが,賃借人が自殺した場合の連帯保証人の責任について取り上げます。

1 クリーニング代金などの原状回復費用   賃借人が自殺した場合,まず想定されるのが,部屋のクリーニングなどの原状回復費用です。賃借人が当該物件で自殺 し,その発見が遅れた場合,通常のクリーニングに比べ,大がかりなものが必要となり,その結果,原状回復費用が余計 にかかることになります。そのため,賃貸借契約時の敷金だけでは,これをまかなうことができない事態が発生しえます 。   まず,前提として,賃借人が死亡した場合でも,賃貸借契約は直ちに消滅する訳ではなく,原則として,賃借人の遺族 が賃貸借契約を相続することとなります。そこで,借家などの場合,亡くなられた賃借人の遺族と賃貸人である大家さん が合意して,賃貸借契約を解除しなければなりません。そして,賃貸借契約解除後に,原状回復を行い,この費用に関し ては,新に賃借人の地位を相続した遺族と連帯保証人が連帯して,これを負担することとなります。   この点に関しては,敷金よりも過分に発生した原状回復費用は,賃借人側(この場合,遺族と連帯保証人)が負担する ということですので,通常の賃貸借契約終了の場合と同じ扱いと言えます。

2 新たな賃料の値下がり分   賃貸人である大家さん(実際には,仲介業者が行う場合が多いでしょう)が,当該物件について,新たな賃借人を探す 場合,前の賃借人が自殺したことを新たな賃借人に告知する必要があります(宅地建物取引業法47条,35条)。この ようないわゆる事故物件の場合,新たな賃借人が躊躇することが通常であるため,賃貸人としては,どうしても新たな賃 料を値下げせざるを得ません。なお,このような事故物件を売買する場合,その情報を売主に説明しなかった場合は,心 理的瑕疵があると主張され,売主は瑕疵担保責任(民法570条)を負うことになります。   そこで,賃貸人としては,新たな賃料の値下げ分を損害として,自殺した賃借人の遺族や連帯保証人に対して請求する ことが考えられます。   まず,賃借人が賃貸物件で自殺をしたことは,賃貸借契約上,賃借人が負う善管注意義務違反となります。そして,前 の賃借人が自殺したことを理由に,新たな賃料の引き下げを行うことは,一般的に新たな賃借人が嫌悪を感じる以上,や むをえないことなので,その差額分の損害は賃借人の自殺と因果関係があるといえます。   そのため,本来自殺した賃借人本人が負うべき新たな賃料との差額分の損害についても,賃借人の地位を相続した遺族 と連帯保証人がこれを負担するということになります。

3 賃借人が病死した場合との違い   なお,賃借人が病死(孤独死など)した場合,賃借人が自殺した場合と扱いが異なります。これは,病死という事態は 通常,亡くなられた賃借人本人にとっても,不可抗力的な事態であり,善管注意義務違反が認められない場合が多いから です。そのため,賃借人の地位を相続した遺族や連帯保証人も,新たな賃料の値下げ分については,これを負担しないの が通常と言えます。なお,クリーニング代金などの原状回復費用については,自殺した場合と同様の扱いがなされます。

4 終わりに   今回は,賃借人が自殺した場合の連帯保証人の責任というテーマを取り上げましたが,個別具体的な連帯保証契約の文 言や事情により,結論が変わりえますので,このようなトラブルに巻き込まれた場合,専門家に相談されることをおすす めします。

 


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