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「離婚した後に子供を引き取るには」・・・弁護士 高井陽子

 最近、離婚に関する法律相談で、離婚後に子供を引き取りたいが、どうしたらよいか、等の相談を受けることが良くあります。その際、必ずお伝えすることは、どちらが親権者・監護権者となるかの話し合いが終わるまで、決してお子さんを手元から離さないで下さいということです。それは、後述する通り、一旦子供を手元から離してしまった場合、取り返すまでにはかなりの時間と労力が必要になるからです。そこで、今回は、どちらが子供を引き取るかの話し合いがつかなかった場合にどのような手続きを経るのか、もし話し合いがつく前に子供を奪われた場合にどのような手続きを経たらいいか、について、ご説明したいと思います。

1 親権・監護権について
  協議離婚をする場合に未成年の子がいるときは、父母の一方を親権者と定めなければならず、この記載がない離婚届は受理されません(民法第765条1項、819条1項)。裁判上の離婚の場合は、裁判所が父母の一方を親権者と定めます(819条2項)。
  したがって、未成年者の子がいる場合、離婚が成立するためには夫婦の一方を親権者として設定することが必要になります。
  一方、民法では、親権者とは別に監護権者を定めることを規定しており(766条)、離婚の場合に、親権者と監護権者を別に定めることも可能です。ただ、監護権者は、親権と異なり、離婚の際に必ず決めなければならないものではありません。

2 親権者・監護権者を決める手続きについて
 (1)親権者について
  ア まず、夫婦間でどちらを親権者とするか合意ができない場合、協議離婚の届け出をすることができませ
   ん。
    そこで、離婚調停の申し立てと合わせて、親権者指定の申し立てを行うことになります。そして、調停で
   は話し合いがつかなかった場合には、離婚に関して裁判所に離婚訴訟を提起することになりますが、その
   際に、裁判所が親権者の指定も併せて行うことになります。
  イ では、親権者を指定する際に、裁判所はどのような点を考慮するのでしょうか。
    調停・審判・裁判における親権者指定の基準は、「子の利益」(819条6項)や子の福祉といった観点か
   ら判断されますが、具体的には次のような要素が考えられています。
  ア 親側の事情
   @親の経済状態、居住・教育環境、家庭環境などの監護体制
   A親の子に対する愛情の程度や監護意思、監護能力
   B親の心身の健康状態
  イ 子側の事情
   @子の年齢や性別、心身の発育状況、兄弟姉妹関係
   A環境の継続性(生活する客観的環境のみならず、主として日常の監護を受けていた親との生活スタイル
    の継続性)
   B子の意思

 (2)監護権者について
  ア 監護権者も、親権者と同様に、協議が不調の場合には、調停、審判の手続きを経ることになります。
  イ 監護権者の指定の基準も、親権者と同様の観点から決められます。
    ただし、監護権者の場合は、子供と日常の生活を共にするという観点から、子の利益に資するのはどち
   らかを検討することになります。

3 では、例えば、子供の親権等について話し合いをしている最中に、突然、一方の親が子供を連れて出て行っ しまった場合、どのような手続きを経たらいいのでしょうか。

 (1)この場合、前述の親権及び監護権の要素のうち、環境の継続性とも関係してくるのですが、そのまま時間
  がたってしまうと、一方の親の下での生活が子供の日常的な生活スタイルになってしまい、こちらが監護権
  者であるとして、連れ去られた先から取り戻すことが難しくなります。
   そこで、直ちに家庭裁判所に、子の監護者指定及び子の引き渡しを求める審判の申立を行う必要があり
  ます。また、この場合、強制執行を保全し、子の急迫の危険を防止するために必要があるとして、同時に子
  の監護者指定及び子の引き渡しを求める審判前の仮処分(保全処分)の申し立てを行います。

 (2)次に、上記申し立てをした結果、裁判所が子供の引き渡しを認める審判を行ったにもかかわらず、子供を
  引き渡してもらえない場合、相手方との交渉次第で任意での引渡しが可能なのであれば、弁護士を介して
  の交渉や、家庭裁判所を通じて相手方に子供を引き渡すよう、義務履行の勧告をするよう申し立てることが
  できます。
    しかしながら、任意の交渉や履行勧告には、強制力がないため、相手方が無視すれば、何ら進展はあり
  ません。
    そこで、執行官と一緒に相手方の下に行き、強制的に子供の引き渡しを受ける方法や、「引き渡すまで、
  一日当たり金3万円を支払え」といように、相手方に心理的圧迫を与えて子供の引き渡しをさせようとするも
  のがあります。
    もし、いずれの執行を行っても効をなさなかったような場合には、人身保護請求を行うことになります。人
  身保護請求は、手続きが迅速であるうえ、子供に国選代理人がつき、相手方の出頭を確保するために身柄
  の拘束などの手段が用意されていることから、最後の手段として有効に子供の引き渡しを行えるものです。

 


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