「小規模宅地の相続税評価」・・・弁護士 花田
行央
1 相続は,普段法律に関与していない方も,避けては通れない法律問題の一つです。相続が発生して,相続人間で何も問題がなかったとしても,相続税は支払わなければなりません。そこで,今回は,相続税対策として,従前より用いられていた小規模宅地の特例について,取り上げます。
小規模宅地の特例とは,租税特別措置法(以下,「租特」と言います。)69条の4により定められており,個人が相続(又は,遺贈)により取得した財産のうちに,当該相続開始直前において,当該相続の被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用又は住居の用に供されていた宅地等がある場合に,その当該財産に限定して,課税価格が減額されるというものです。本特例の趣旨は,残された相続人の生活基盤となるような宅地又は,それまでの事業用資産については,相続税を減額することにより,相続人の生活を守ることにあります。
2 特定事業用宅地等
イ 被相続人の親族が被相続人と同一の事業を承継した場合,本特例の適用を受けるためには,以下の要 件を満たす必要があります。@被相続人の事業の用に供されていた宅地の上で営んでいた事業を相続開 始時から相続税申告期限までの間に引き継ぎ,A申告期限まで引き続きその宅地等を有しかつその事業を 営んでいること(租特69の4V@イ)。ただし,本特例が適用される部分は,上記要件を満たす相続人が取 得した部分に限定されます(租特令40の2X)。
ロ 被相続人と同一生計の親族が,被相続人が事業用に供していた宅地を相続した場合,本特例の適用を 受けるためには以下の要件を満たす必要があります。@相続開始時から申告期限まで引き続きその宅地 等を有し,A相続開始前から申告期限まで引き続きその宅地を事業に用いていることが必要となります(租 特69の4V@ロ)。
このような要件を充たす宅地の場合,その課税評価は100分の20となります。
3 特定居住用宅地等
被相続員の居住の用に供されていた宅地で,相続人の配偶者又は,以下の要件を充たす相続人が取得したものについては,特定事業用宅地同様,当該宅地に限り,その課税評価が100分の20となります(租特69の4VA)。
イ 当該親族が相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続人の居住の用に供されてい た家屋に居住していた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該 家屋に居住していること。
ロ 当該親族が相続開始前三年以内に相続税法の施行地内にあるその者又はその者の配偶者の所有する 家屋に居住したことがない者であり、かつ、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有している こと(イに該当する親族がいない場合に限る)。
ハ 当該親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該 宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の居住の用に供しているこ と。
4 特定同族会社事業用宅地等,貸付事業用宅地等
上記の特定事業用宅地等,特定居住用宅地等以外に,特定同族会社事業用宅地等や貸付事業用宅地につい ても,同様の課税評価の減額があります(なお,貸付事業用宅地については,課税評価は100分の50となりま す。)。本紙では,一般的なものである特定事業用宅地等及び特定居住用宅地等についてのみ紹介させて頂きました。
5 平成22年度の税制改正により,本特例は改正されました。主な改正点としては,@共同相続の場合に,本特 例の適用基準が取得者ごとに判断されるようになったことA宅地の各部分毎に細かに適用要件を判断して,それぞれ評価減が行われるようになったことなどが挙げられ,基本的に本特例の適用範囲が限定されたと言えます。そのため,改正により,今まで取っていた節税対策が効を奏さなくなる場合もあります。転ばぬ先の杖として,自分が払うことになる又は,自分の子供達が払うことに相続税はいくらになるのかを知り,それに備えることが大切です。
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