「改正特定商取引法」・・・弁護士・中島徹也
昨今の悪質商法による消費者被害の実態を踏まえ、平成20年6月に特定商取引法が改正され、平成21年12月 1日から施行されました。本稿では、この改正特定商取引法のポイントについてご説明いたします。
1 指定商品制・指定役務制の廃止
改正前の特定商取引法では、規制対象が政令で指定された商品やサービス、権利に限定されていました。
しかし、このような限定列挙方式では、クーリング・オフが可能な対象が、すでに消費者被害が多発しているものに 限られてしまうことになり、多様な商品やサービスが次々に開発され販売・提供されている昨今の市場の変化に対応 することが困難となっていました。特に、悪質事業者が規制対象外の商品やサービスに目を付けてくるのに対し、規制 が後追いになってしまうという問題がありました。
そこで、改正特定商取引法は、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売について、原則として全ての商品・サービスを規 制対象とした上で(法2条)、必要に応じて適用除外(法26条)を設ける方式を採用しました。
なお、権利については、改正後も指定権利制が維持されていることに注意が必要です。
2 過量販売撤回・解除制度の導入
近年、高齢化社会の到来に伴い、悪質事業者が一人暮らしの高齢者などを狙い打ちにして訪問し、その日常生活に 到底必要とは考えられないような過剰な量の商品を販売する「過量販売」、特に、異なる業者が入れ替わり立ち替わり 訪問して商品やサービスの勧誘をしてくるなどの「次々販売」による被害事例が社会問題となりました。
そこで、改正特定商取引法は、訪問販売について、消費者が「その日常生活において通常必要とされる分量を著しく 超える」商品やサービスに関する契約を締結してしまった場合に、その契約についての申込みの撤回や解除をできるよ うにしました(法9条の2)。
この制度の特徴は、「過量販売」において、被害者の立証負担を軽減したことにあります。すなわち、被害者は、個別 の販売行為の違法性などを立証しなくても、「その日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える」などの外形 的事実(例えば、一人暮らしの高齢者が高級羽毛布団を10枚以上購入させられたことなど)を立証するだけで、契約を 解除できることになりました。
訪問販売については、さらに、契約締結を拒否した消費者に対して再度の勧誘をすることが禁止されるようになりまし た(法3条の2)。
3 迷惑広告メールに対する対応強化
改正前の特定商取引法では、電子メール広告の受信を拒否した者に対し、再度電子メール広告を送信することを禁止 するというオプトアウト規制がかけられていました。
しかし、このような規制では、受診拒否の連絡を行うと別の事業者から別の電子メール広告が送信されてくるといった ように、かえって個人情報が悪用されるような事態が生じ、迷惑広告メールの増加に歯止めをかけることはできません でした。
そこで、改正特定商取引法では、消費者の承諾を得ないで電子メール広告を送信することを禁止するオプトイン規制に 改められました(法12条の3)。
また、販売業者などから電子メールによる広告業務について一括して委託を受けた電子メール広告受託事業者も、規 制対象とされました(法12条の4)。
4 通信販売における撤回・解除
改正前の特定商取引法では、クーリング・オフ制度のない通信販売について、その商品広告に返品に関する特約を表 示することが義務付けられていましたが、実際の広告ではこの特約の表示が適正に行われていないことが多く、そのた め、返品・交換に関するトラブルが多発していました。
そこで、改正特定商取引法では、通信販売について、原則として消費者が商品や指定権利に関する契約の申込みの 撤回や解除をすることができるものとする一方で、事業者が商品広告において返品に関する特約を適正に表示していた 場合にはこの特約に従うこととして、消費者と事業者の利益の調整が図られることになりました(法15条の2)。
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