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特    集

「民法(債権法)改正」・・・弁護士・上田裕介

 民法(債権法)改正検討委員会が、約2年半の研究の結果、2009年4月に、債権法改正の基本方針を公表しました。
 同検討委員会は、学者有志による私的な団体でありますが、今後の法制審議会での改正審議に大きな影響を与えるものと考えられます。そのため、弁護士会からも意見が寄せられるなど、議論が活発になっております。

 民法典のうち債権法は、1896年の制定以来、ほとんど改正を加えられておりませんでしたが、市場経済のグローバル化の中で国際的に通用する民法典を作る、一般国民にとって分かり易く利用し易い民法にする、などの理念から、同検討委員会による研究が始められたようです。

 同検討委員会による債権法改正の基本方針における改正案は、民法に消費者契約法を取り込むこと、契約責任原理の大幅な転換、時効の見直し、金銭債権の譲渡の第三者対抗要件を債権譲渡登記に一元化することなど、多岐にわたっています。

1 民法に消費者契約法を取り込むことについて
  消費者契約法は、消費者と事業者の情報の質・量や交渉力の格差があることを前提に、消費者の利益を守ることを目
 的として、事業者からの不当な勧誘がなされたときの取消権や、不当な条項についての無効などを定めています。
  このような消費者契約法は、大学の学費返還請求訴訟や、敷金返還訴訟などで利用されてきたものです。
  消費者契約法が民法に一元化されれば、当事者対等が原則となっている民法において、当事者間の力関係の差及
 びその是正も普遍的なルールとして認識されるのではないかという指摘があります。
  一方で、消費者契約法が民法に一元化されれば、民法の主管が法務省であるため消費者契約法も法務省の主管に
 なると考えられるところ、消費者被害の救済を実践的に迅速に行うには、消費者契約法については法務省ではなく消費
 者庁の主管とすべきであるという指摘などがあります。

2 契約責任原理の転換について
(1) 検討委員会による改正案では、債務不履行に基づく損害賠償責任において、過失責任主義を放棄して、損害賠償
  責任の免責事由として、「責めに帰すべき事由がないこと」ではなく、「契約において債務者が引受けていなかった事
  由」を提案しています。
   かかる提案は、過失責任主義は行動の自由が前提となっているところ、契約においてはなすべきことが義務付けら
  れるのであるから、行動の自由を問題にする場面ではなく、したがって、契約において過失責任主義をとることは理論
  的に間違っているという指摘に基づくもののようです。
   この改正案によれば、契約締結時点において、「契約において債務者が引受けていなかった事由」を多数羅列する
  ことによってリスクを回避するという発想になると思われ、契約書が長文化するのではないか、そうすると対等でない
  当事者間では弱者に不利な契約書が締結されることが多くなるのではないか、「契約において引受けていなかった」
  とは、結局は不可抗力か債権者の帰責事由によるものではないか、などの批判があります。

(2) また、検討委員会による改正案では、債務不履行に基づく解除についても、履行遅滞解除、履行不能解除、不完
  全履行解除の3つを、「重大な不履行」の場合の解除に一元化することを提案し、瑕疵担保責任についても、法定責
  任説を採用せず、契約責任とすることにして、担保責任のための特則を設けることを提案しています。

3 時効の見直し、金銭債権の譲渡の第三者対抗要件を債権譲渡登記に一元化することも、実現されれば、実務に大き
 な影響を与えることは必至です。
  これらの検討委員会による改正案が現実化すれば、個人のレベルにおける取引の基本ルールまでもが大きく様変わ
 りし、また、民法典の条文数は、これまでとは比較にならない程多くなると考えられます。
  今後、民法改正の状況についても、注目していく必要があろうかと思います。


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