「内定取り消しと整理解雇・雇い止め」・・・弁護士・市河真吾
1.内定取り消し
企業において、正規従業員の採用は、労働者(従業員)の募集と労働者の応募、採用試験、面接等を経て、採用の内定通知書を送付し、入社日に辞令交付が行われ正式採用となるのが一般です。内定は、正式採用前の状態ですから、従来は会社都合で一方的に取消をしても適法との理解で、内定取り消しが行われ、採用予定者が泣き寝入りということもありました。
しかし、これでは採用予定者の地位があまりに不安定であり、新卒者で卒業間近の内定取り消しは、大きな損害です。そこで、判例(最判昭和54・7・20、最判昭和55・5・30日など)は、内定について、企業による募集は労働契約の誘引であり、その応募は、労働者による労働契約に関する申込みであり、内定通知の発信が、その承諾として労働契約の成立を認めました。その契約は、試用労働契約あるいは見習い社員契約で、始期付きかつ解約権留保付きであると理解されています(始期付解約権留保付労働契約説。これは、採用内定取り消し事由が生じた場合は、解約できる旨の合意が存在し、卒業できなかった場合も当然解約できるとされます。)。
そして、内定取り消し(留保解約権の行使)が適法かどうかは、内定通知書や誓約書にかかれた「取消事由」を参考に客観的に合理的で社会通念上相当として是認できる事由があるかどうかによって決定されることになると解釈されています。企業経営の悪化が正当な取消事由になるかどうかは、その説明手続きの有無、通知を発した時期等によっては、違法となる場合があるでしょう。もちろん、違法とされる場合は採用予定者の損害賠償請求が企業に対して認められると解されます。
ところで、「内々定」ということがよくいわれます。これは大学と企業らとの申し合わせによる「採用内定開始日」前に、企業が口頭で申込者の学生に「採用内々定」を約束する場合です。これは内定開始日に正規式に採用内定の書面通知を行うことを予定しているものです。上記判例法理でも「内々定」の段階では、始期付解約権留保付労働契約が成立したとは認めにくいといわれています。しかし、「内々定」でも、実質は採用内定と評価できる場合や恣意的な取り消しの場合は、企業に対して契約締結の準備段階の過失等による損害賠償請求ができる余地はあるでしょう。
2.整理解雇
企業が経営悪化のため人員削減の手段として行う解雇を整理解雇といいます。解雇手続き一般として、解雇する前に企業は少なくとも30日前に解雇の予告をして解雇手当を支払わなければなりません(労働基準法第20条。ただし、やむを得ない事由や労働者に責任がある場合は解雇予告と解雇手当は不要となります。)。
また、整理解雇といっても、それが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となると解されています(解雇権濫用の法理 労働基準法第18条の2)。したがって、@人員削減の必要性がない場合、A整理解雇を選択する必要性がない場合(他の手段があったかどうか)、B被解雇者選定の妥当性がない場合、C整理解雇手続きが妥当でない場合は、整理解雇は無効と解されます(裁判例)。
3.雇い止め
さて、パートや契約社員など雇用期間が限定されている場合の打ち切り(期間更新しない、更新拒絶の場合)についてはどうでしょうか。いわゆる「雇い止め」の問題です。
形式的には「解雇」ではないので、上記整理解雇の規制は関係がないように思われます。しかし、企業が人件費コストを抑えるため契約社員として雇用し、人員削減のため、安易に更新拒絶を有効とすることは、継続的な更新を前提としていた場合は、実質整理解雇に等しいといえます。つまり、契約社員といっても、その雇用がある程度継続することが期待されていた場合は、解雇権濫用法理の類推適用により、客観的に合理的な理由がなければ、更新拒絶が無効となると解釈されています(最判昭和61・12・4など参照)。また、実質解雇と同じであるので、「雇い止め」においても解雇に準じた手続きが要求されます(厚労省告示「有期労働契約の締結、更新・雇止めに関する基準」(平成15・10・22厚労告357号))。
もっとも、これらは具体的事情に即した判断になること及び、正規従業員と期間従業員では継続雇用保護の必要性判断に類型的な差異があること(正規従業員よりも先に期間従業員が整理の対象になることなど)から、抜本的な解決は立法が望ましいともいえます。
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