「著作権」・・・弁護士・高井陽子
最近、テレビのニュース等で著作権という言葉を耳にすることが多いですが、著作権は有名人だけが持っている権利だと思っていませんか。いえいえ、サムアップをお読みの皆さんも著作権を持っているのです。皆さんが子供の頃描いた絵や、作曲した音楽、撮影した写真など、皆さんが著作権者となるものは、沢山あるのです。
1 そもそも著作権って何なのでしょう。
著作権は、人の思想や感情を表現したものを保護する権利です。著作権法2条1項1号は、人の「思想又は感情を 創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を著作物と規定して、これらの著 作物を保護しています。著作物には、バレエの振り付け、まんが、コンピュータープログラムなども含まれます。
著作権と同じ知的財産権の権利の一つとして、特許権というものがあります。特許権は、産業技術の発展のために 発明を保護する権利ですが、特許権は、特許庁に出願し、登録しなければ権利が発生しません。これに対し、著作権 は、権利を得るために何の手続きもいりません。あなたが音楽を作曲すれば、その時点であなたは、その曲の著作 権を有する著作者となるのです。
2 では、著作者はどんなことができるのでしょうか。
あなたが音楽を作曲した場合を考えてみましょう。
(1)あなたには、あなたの曲を公表するかどうかを決める権利(公表権)や、あなたの曲の内容を、あなたの意に反して 勝手に改変されない権利(同一性保持権)があります。また、あなたの曲を録音などの方法によって有形的に再製す る 権利(複製権)やあなたの曲を公に演奏する権利(演奏権)、その演奏権を第三者に譲渡する権利(譲渡権)もあ ります。
(2)では、あなたの著作権は、永遠に保護されるのでしょうか。
残念ながら、著作権の保護期間は、原則として著作者が著作物を創作した時点から著作者の死後50年と決められ ています(著作権法第51条)。あなたの著作権が保護される期間は、あなたの死後50年までなのです。
(3)では、あなたの曲を友人Aに聞かせてあげたところ、Aが勝手にあなたの曲を演奏してコンサートを開催してしまっ,
た場合、あなたはAに対して何が言えるのでしょうか。
まずあなたは、あなたの曲を勝手に演奏しているAに対して、利用を止めるように差し止め請求ができます(著作権 法第112条1項)。また、Aがあなたの曲を演奏したためにあなたに損害が生じた場合、あなたはAに対して損害賠 償請求をすることができます(民法第709条)。さらに、Aがあなたの曲を演奏することで利益を得ていた場合には、 その利益をあなたに返すよう請求することもできます(民法第703条)。Aがあなたに無断で、意図的にあなたの曲を 公表してしまった場合には、あなたの名誉を回復するための措置を求めることもできます。そして、著作権侵害は犯罪 とされていますので、あなたがAを告訴して、刑事処罰してもらうこともできます(著作権法第119条)。
ただし、著作物は、人の思想又は感情を創作的に表現したものですので、著作権を侵害したといえるのか否かの判 断は難しい場合があります。また、既存の曲の存在や内容を知らずに作った曲を公表したら、たまたま別の人が作曲 した曲と一致したような場合は、著作権侵害にはなりません。
(4)先ほどの事例で、あなたがAを訴えたところ、Aが、自分で作曲した曲を演奏しているだけだから、あなたの著作権 は侵害しないと反論した場合を考えてみましょう。
この場合、Aがあなたの著作権を侵害したといえるためには、@Aがあなたの曲を聴く機会があって、その影響をう けて作曲したこと(依拠性)、Aあなたの曲とAが演奏している曲との間に類似性があること(類似性)、を立証する必 要があります。そして、音楽の場合、音楽を構成する要素としては、リズム、メロディー、ハーモニー、構成等があるの で、類似性を判断するには、それぞれを検証する必要があります。
(5)では、あなたの友人Aがコンサートをした場所がアメリカ合衆国であった場合、あなたは著作権を主張して保護を受 けることができるのでしょうか。
音楽のみならず、絵画など文化的な作品には国境はありません。このような事態に対応するために、国家間では、 著作権を国際的に保護するベルヌ条約が締結されています。日本は1899年に加盟していますが、現在では世界中 のほとんどの国が加盟しています。ベルヌ条約同盟国は、他の同盟国の著作物に対して、自国民の著作物に与える 保護と同一の保護を与えなくてはなりません。その際、適用される法律は、保護が要求される国の著作権法になりま す。
そこで、本件の場合、あなたは、アメリカ合衆国の著作権法に基づいて、あなたの著作権を保護するよう主張してい くことになります。
3 このように、著作権は、あなたの身近にある権利なのです。これを機に、あなたが何気なく投稿していた写真展等、 日常の生活の中でのあなたの著作権について考えてみられてはいかがでしょうか。
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