「労働契約法」・・・・・弁護士・上田裕介
1 この度、平成20年3月1日に施行された労働契約法は、労働基準法(労基法)、労働組合法(労組法)と並ぶほど重 要な法律と言われています。
労働契約法は、労働者と使用者の間で締結される労働契約についてのルールを定めたものです。
民法にも、労働者と使用者の間において取り交わされる雇用契約に関する規定があります。
しかし、民法は、対等な当事者間での合意を前提としており、一方で、一般的には、個人である労働者が弱い立場に あり、組織された使用者が強い立場にあって、労使間は、対等な立場にはありません。
そこで、契約関係における労使の調整を図るべく、労働契約法が定められたのです。
なお、労基法は、労働条件の最低限を定め、この最低限の労働条件を下回る労働条件を許さず、行政の監督や、刑 罰を科すものです。
労組法は、労働者が労働組合により使用者に対して団体交渉を要求して、より良い労働条件を得ることについてのル ール等を規定しています。
2 労働契約法が成立するまでは、判例により、労使間の紛争が解決されてきました。裁判所が出す判決の積み重ね が、労使間の紛争解決の指針となっていたのです。
これら判例は、使用者の広範な人事権を認めた上で、民法に定める権利濫用、信義則又は公序良俗によって、この 人事権に制限を加えてきました。
労働契約法は、これら労働関係判例法理の確認がほとんどで、その概要は、労働契約の成立、変更、継続、終了及 び、期間の定めのある労働契約について定めが置かれているというものです。
以下、これらの労働契約法の定めのうち、特徴的なものをいくつかご紹介します。
(1) 労働契約の成立
労働契約法は、労働契約の原則として、労働契約は、労使の対等の立場において合意すべきものと規定しています (3条1項)。
また、使用者は、労働者に対し、労働契約の内容について労働者の理解を深めるようにする義務を負うものと規定さ れています(4条)。
また、労働契約法は、労働契約が、労使間の合意によって成立することも規定しています(6条)。
(2) 労働契約の変更
労働契約法では、労働条件の変更は、その成立と同様、原則として、労使の合意によることが定められています(8 条)。
そして、使用者が、労働者との合意によらずに、就業規則の変更によって、労働者に不利益な労働条件の変更をする ことができないことも規定されています(9条)。
但し、労働契約法は、就業規則の変更が合理的である場合には、労働条件の変更も許されると規定しています(10 条)。10条による労働条件の変更は、同条に規定する要件を全て満たさねばならず、合意によらない就業規則の変更 による労働条件の変更については、注意を要すると考えられます。
(3) 労働契約の継続・終了
労働契約法では、使用者が出向命令を出すことができるときに、当該出向命令が、権利濫用と認められる場合には、 当該命令が無効となる旨規定されています(14条)。
また、労働契約法は、使用者のなす懲戒が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないときは、 当該懲戒が無効となる旨規定しています(15条)。
そして、解雇についても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないときには、当該解雇が無効 となる旨規定されています(16条)。この解雇制限に関する16条は、労基法18条の2を、労働契約法に移行したもの です。
(4) 期間の定めのある労働契約
期間の定めのある労働契約については、やむを得ない事由がなければ、使用者は、期間満了まで、労働者を解雇で きない旨規定されています(17条1項)。
また、使用者は、期間の定めのある労働契約について、必要以上に短い期間を定めることによって、労働契約を反復 して更新しないよう配慮しなければならない旨規定されています(17条2項)。
3 労働契約法は、現在は、条文数が少なく、これまでの労働関係判例法理を確認したものがほとんどですが、労使間の 契約関係を規定するものであり、また、今後、労使間の契約ルールを規定するより充実したものに変貌していく可能性も あり、注目が必要です。
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