金融商品取引法・・・・・・・・・・弁護士・野澤 隆
1 ライブドア事件や村上ファンド事件をご記憶している方や金融商品取引に関して実際に被害を受けた方は多くいると思いますが,こうした金融業界でのトラブル防止を目的として商品別又は業者別に分かれていた規制を包括する形で平成18年6月に制定された金融商品取引法については,まだ十分に周知されておりませんので,今回はこの法律について説明いたします。
2 まず制定経緯ですが,この法律は,金融審議会が平成17年12月に打ち出した報告「投資サービス法(仮称)に向けて」を受け,証券取引法を改組して成立したものです。これと同時に100近い法律が廃止又は改正され,フリー・フェアー・グローバルを基本理念とする日本版ビッグバン構想はここに法規上一応の成果をあげました。
ただ,この法律は,預金・保険について直接的な規制をしておりませんので,この分野での包括的規制については今後の課題として残されることとなりました。
また,各種規制等は主に一般投資家(アマ)の保護を目的にしたもので,特定投資家(プロ)に関しては,むしろ規制緩和の流れの中,規制の柔軟化がなされ,円滑な資金調達が優先されましたので,金融業界に直接関係する人は,この点をふまえる必要があります。
この法律は,大きく分けて,(1)投資性の強い金融商品に対する横断的な投資者保護法制の構築,(2)開示制度の拡充,(3)取引所等の自主規制機能の強化,(4)不公正取引等への厳正な対応,の4つの柱からなります。今回は,この法律の中で一般消費者(投資家)保護の観点から興味深いものにつき2つほど説明いたします。
3 「不招請勧誘の禁止」などについて
不招請(ふしょうせい)勧誘の禁止とは,勧誘の要請をしていない顧客に対し,訪問又は電話により勧誘をすること を禁止するものです。金融商品取引の契約については,素人に対する無理な販売による被害が絶えない現実があるので,この原則が一般的枠組みとして採用されました。
また,適合性(顧客の知識や経済状態などに照らして不適当と認められる勧誘をしてはならないこと)の原則,再勧誘(取引を行わない旨を明らかにした者に対する更なる勧誘)の禁止やそれを前提とした勧誘受諾確認(勧誘に先立って,顧客に対し,その勧誘を受ける意思の有無を確認すること)義務の原則なども採用されています。これらの原則の採用は,近年の各種投資家・消費者保護立法の確認及び強化のあらわれです。
4 「クーリングオフ制度」などについて
一般法としての性格が強いこの法律においても,特定商取引法等で導入されているクーリングオフ制度(契約が成立しても一定期間確定的な効力を生じさせず,その間の契約解除等を認める制度)が採用されました。また,広告規 制の強化,契約締結前後双方での書面交付の徹底も図られました。これらの制度は前述の各原則その他を側面から担保するものです。
5 この法律は,これまでこれといった投資家保護のルールがなかった組合型ファンド(任意組合や匿名組合など)や様々なデリバティブ取引(外国為替証拠金取引,通貨・金利スワップ取引,天候デリバティブ取引など)等にも横断的な規制をかけておりますので,今後,この法律により保護を受ける消費者が増大すると思われます。
今回の改正は,アメリカ型の企業改革法(いわゆるSOX法)の導入,認定投資者保護団体による裁判外紛争解決手続き(いわゆるADR)の創設,公開買付制度(TOB)や大量保有報告制度に関する見直し,各種罰則の強化など多岐にわたっています。それゆえ,制度の定着にはかなりの時間を要するほか,前述の不招請勧誘の禁止その他の原則及びクーリングオフ制度などの適用範囲等については,政令その他で詳細に定められることになっておりますので,今後もそうした詳細及び実際の運用等について適宜ご紹介させていただきます。
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