『民事保全』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・弁護士・上田裕介
1 民事保全とは
例えば、賃貸物件の賃借人に対して裁判所を通じて明渡請求をしたい場合、建物明渡請求の訴えを提起し、勝訴判決等の債務名義を得た上で強制執行をするという流れになります。しかし、かかる手続をしている最中に、その賃借人が第三者をその賃貸物件に住まわせてしまった場合、仮に訴え提起の手続のみしかとらなければ、既にした訴えの相手方はあくまでその賃借人ですから、第三者を退去させるためにはまたその第三者に対して訴えを提起しなければなりません。かかる状況では、賃貸人としてはなかなか明渡を完遂することができません。
かかる事態を避けるために採るのが、占有移転禁止の仮処分の申立です。この申立をなすことによって、賃借人以外の第三者が賃貸物件を占有しても、要件はありますが、賃借人に対する判決をもって、その第三者に対しても強制執行していくことが可能となり、賃借人に対する訴え提起の実効性を確保できるのです。
このように、訴え提起から判決の確定までの間に、債務者の財産状態や係争物の権利関係が変化し、権利者が勝訴判決を得ても強制執行できないという事態を避けるために、権利を主張する者に暫定的に一定の権能や地位を認めるのが民事保全です。
2 民事保全の概要
(1) 民事保全には、大きく言って、仮差押えと仮処分とがあります。
(2) 仮差押えとは、金銭債権を有する者が強制執行のために判決をとろうとしたときに、訴えを提起されたことを知った
債務者が、その財産を隠したりして将来の強制執行を妨害しないように、予め債務者に対して財産の処分や現状変 更を禁止しておくものです。
例えば、貸金債権の債務者が不動産を資産として有している場合、その不動産の仮差押えをしてから貸金債権に ついて訴えを提起するということが考えられます。この仮差押えにより、執行の目的として想定した不動産の処分を 制限することができます。
(3) 仮処分には、係争物に関する仮処分と、仮の地位を定める仮処分があります。
@ 係争物に関する仮処分とは、債権者が債務者に対して特定物についての給付請求権を有し、かつ、目的物の現 状が変わることによって将来の権利実現が不可能になったり著しく困難になったりするおそれがある場合に、目的物 の現状維持に必要な暫定措置をする手続です。
以上の占有移転禁止の仮処分は、この係争物に関する仮処分の一つです。
A 仮の地位を定める仮処分とは、争いがある権利関係について、債権者に生ずる著しい損害や急迫の危険を避け るために、暫定的に必要な措置を命じる仮処分です。
例えば、解雇された従業員が、その解雇が不当であるとして従業員たる地位にあることの確認を求める訴えを提 起する場合があります。しかし、かかる訴え提起についての判決をただ待っていたのでは、判決までの間その従業 員は生計の手段を断たれてしまいます。そこで、このような場合は、解雇をした会社を債務者として、従業員としての 地位の仮の確認と共に、給料の仮払いの仮処分を求めることが考えられます。かかる仮処分は、仮の地位を定める 仮処分にあたるものです。
B 尚、民事保全によって、債務者が損害を被る可能性があるため、かかる損害を担保するため、ほとんどの事例に おいて、裁判所から、担保を立てることを要求されます。
3 民事保全を早期に
以上のような民事保全を早期にとることは、権利実現の実効化のためにとても大切です。民事保全により自らの権利を守るためにも、早期の法律事務所へのご相談をお薦め致します。
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