『不動産の証券化』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・弁護士・藤川綱之
1 証券化とは
皆さんは,「証券化」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ごく簡単に定義すれば,「ある資産を証券の形に変換する金融技術」と言えます。そして、「ある資産」として如何なる資産を用いるか,「金融技術」として如何なる仕組みを用いるか,その組み合わせによって,様々な証券化のスキームが、オーダーメイド的に作られているのです。
極端に言えば、キャッシュフロー(将来の現金の流入から流出を差し引いたもの)が生じる資産であれば、どの様な資産でも証券化できると言われており、先般、アイドルまで証券化されたとして話題になりました(アイドルに投資し、投資金によって写真集やCDを発売し、その収益を分配する証券)。
2 不動産の証券化とは
そして、今回話題にする「不動産の証券化」とは、「ある資産」として不動産を用いる場合のことを言います。なお、キャッシュフローが読みやすい資産ほど証券化しやすく,読みにくい資産ほど証券化しにくいと言われていますが、前者の代表例としては住宅ローン等が,後者の代表例としては不良債権等が挙げられています。
そして,不動産は、空室発生のリスクや将来に於ける修繕費など,キャッシュフローが読みにくく,証券化しにくい資産の一つと言われていました。それでは何故、敢えて不動産を証券化するのか、その仕組みや効用について、簡単に説明したいと思います。
3 不動産証券化の簡単な仕組み
不動産証券化の概要をご理解頂くため、ごく簡単なスキーム図を以下に示しておきます。なお、証券化のプロセスに於いては、投資家への配当を最大限にするため、SPC(証券を発行するために設立される特別目的会社)の法人所得への課税及び投資家の配当所得への課税、二重の課税が為されることを排除する必要があります。
また、投資家は、オリジネーター(不動産の原保有者)の信用力ではなく、不動産そのものの信用力に着目して投資していることから、不動産がオリジネーターの倒産から隔離されている必要があります。
以下のスキーム図によれば、オリジネーターが、信託銀行に対し、不動産を信託譲渡した上、SPCに対し、信託受益権を譲渡します。そして、SPCが、信託銀行がテナントから収受する賃料を背景に、投資家から匿名組合出資を受け、信託受益権の購入代金に充てることになります。この点、匿名組合の営業者たるSPCで収益が上がらないようにすることで、二重課税が排除され、信託受益権がオリジネーターからSPCへ真正売買されることで、倒産隔離が図られているのです。
4 不動産証券化の効用
オリジネーターが、複雑なスキームを構築してまで、敢えて不動産を証券化するのは、それなりのメリットがあるからに他なりません。具体的には,@資金調達,Aリスク回避,Bオフバランス化というメリットが挙げられています。
この点、オリジネーターは、従来、銀行が預金者から預かった資金を借り入れるという,間接金融により資金調達を図ってきましたが、所有する不動産を証券化することで,銀行を通さず投資家に働きかけるという、直接金融により資金調達を図れるようになりました(@)。
また、不動産を証券化することで、不動産を売却した場合と同じ効果を期待できますので、不動産を持ち続けることによる様々なリスクを回避できたり(A)、不動産を貸借対照表から落とすことで財務指標を改善することができたりするのです(B)。
5 最後に
不動産が証券化の難しい資産であることは既に述べましたが、不動産業界ほど証券化に期待している業界はないとも言われています。先に述べた証券化のメリットが期待できることは勿論ですが、不動産からの安定したキャッシュフローを確保するためのプロパティマネジメントビジネスや複数の投資家から資金を集めて不動産に投資する不動産ファンドビジネス等、新たなビジネスチャンスが広がっていると考えられているからです。今後の不動産証券化ビジネスの展開に注目されるところです。
|